黄疸,血色素尿を伴う離乳期の黒毛和種子牛の死亡例が数年間にわたって散発している農場があり,病態から銅中毒が疑われた.この農場では,複数の飼料を組み合わせて給餌しており,飼料の銅濃度測定の結果,ほとんどの飼料に銅が含まれていた.子牛給餌飼料中の銅濃度は,飼育全期間を通じて日本飼養標準・肉用牛に示された要求量を超えていた.同農場で飼育されている子牛の血中銅濃度を測定したところ,群全体の血中銅濃度は月齢が進むにつれて上昇しており,持続的な銅の過給が推察された.発症例の血清,死亡例の血清及び肝臓から高濃度の銅が検出され,この群において,過剰な銅を含む飼料を多く摂取した個体や基礎疾患のあった個体が,慢性銅中毒を発症していたものと考えられた.
非臨床安全性試験で汎用されているカニクイザルにおいて,発生頻度の低い小球性低色素性貧血が認められ,併せて赤血球凝集像及び球状赤血球といった免疫介在性を示唆する所見を認める症例に遭遇した.初期治療にて経口鉄剤の投与を行ったものの,球状赤血球及び赤血球凝集像は消失せず,治療休止後に貧血の再発が認められた.その後,経口鉄剤及び免疫抑制剤の併用投与が奏功したため,本症例はカニクイザルにはまれな小球性低色素性貧血で,かつ貧血の機序として,鉄欠乏性及び免疫介在性が複合的に関与した希少な症例と考えられた.
第3度房室ブロックを示した猫22例の心臓について,詳細な病理学的検索を実施した.これら22例の基礎心疾患は,肥大型心筋症10例,拘束型心筋症(心内膜心筋型)3例,不整脈源性右室心筋症2例,陳旧性心筋梗塞1例であり,残り6例の心臓に明らかな病的変化は認められなかった.房室接合部の組織学的検索では,基礎心疾患の有無やその種類に関係なく,全例の中心線維体基部と心室中隔頂上部に重度の線維増生(心臓骨格左側硬化)が認められた.こうした病的変化は同領域を走行する房室伝導系を巻き込み,伝導系細胞の脱落を引き起こしていた.なお,房室伝導系の重度傷害はヒス束分岐部から左脚上部に主座しており,高齢者にみられる特発性ブロックの原因であるLev病に類似していた.