放牧されていた9カ月齢,雌のホルスタイン種育成牛が,後躯蹌踉を呈した.投薬による治療を行うも改善せず,起立不能となった.身体検査では,前肢は突球様を呈し,後肢は脱力し,尾力は減弱していた.神経学的検査では,両後肢の膝蓋腱反射と屈曲反射の低下及び交叉伸展反射の亢進が認められた.病理解剖では,明らかな異常は認められなかった.病理組織学的検査により,脊髄全長の白質と脳幹の一部に軸索変性が認められた.また,脊髄近位端と遠位端,及び脳幹の病変分布と質から中枢性遠位性の脊髄軸索変性症と考えられた.本症例の病理像と一致する報告は過去に存在しなかった.本研究では原因は明らかでなかったが,病理組織学的所見と病変分布はマレーグレイ種の遺伝性進行性脊髄症と類似していた.
臨床現場において,Rope Squeezeの嗜眠導入及び維持により子馬の保定を行った.生後1日齢から6週齢までのサラブレッド種子馬22頭(雄12頭,雌10頭)に対して,合計62回のRope Squeezeでの嗜眠導入し,処置を実施した.処置は,キャスト固定/除去,眼瞼内反矯正処置,関節洗浄/穿刺,静脈内局所還流,外傷処置,輸液,静脈注射,採血,導尿であった.62回中61回は嗜眠導入及び維持により十分な保定並びに安全な処理を実施することが可能であった.Rope Squeezeによる嗜眠導入及び維持を保定に用いることで,子馬診療における日常的な採材及び処置が実施可能であった.
獣医臨床教育では実験動物の使用を可能な限り削減するため,映像教材や代替モデルが用いられている.本研究ではより現実に近い臨場感を提供するため,バーチャルリアリティ(VR:virtual reality)教材を作成し,評価した.教材は360度カメラを用いて撮影してVR用ヘッドマウントに装着し,スマートフォンのアプリの専用モードで再生して獣医学部学生が視聴した.アンケートの結果,「とても良い」が78名(53.1%),「まあ良い」が51名(34.7%)で,「あまり良くない」が13名(8.8%)であった.この結果はオンライン動画教材の評価と近似しており,どちらの教材も同様の評価が多くみられた.生体と代替法を使った実習のそれぞれを希望する学生によるVR教材の評価に有意差は認められなかった.VR教材は,獣医小動物臨床導入教育として学生の関心・意欲を刺激する目的に有用であると考えられた.
われわれは,肥育豚の盲腸内容物と回結腸リンパ節からサルモネラを分離し,豚のサルモネラ保菌検査における回結腸リンパ節の有用性及び回結腸リンパ節の増菌培養時間について検討した.25農場中3農場(12%),250頭中13頭(5.2%)がサルモネラ陽性であった.その後の陽性2農場の継続調査を含め,340頭中52頭(15%)からサルモネラが分離された.盲腸内容物のサルモネラ陽性率は10%(34/340),回結腸リンパ節のそれは11%(38/340)であり,統計的に有意差はなかった.しかし,盲腸内容物のみの結果では供試豚のサルモネラ保菌率は10%となるが,回結腸リンパ節の結果を合わせると保菌率は15%に上昇した.したがって,盲腸内容物のみでなく回結腸リンパ節も材料として用いることにより,豚のサルモネラ保菌状況をより正確に把握できると考えられる.また,回結腸リンパ節の増菌培養時間に関しては,48時間培養の陽性率は11%で,24時間培養の7.9%よりも有意に高かった.