ホルスタイン種経産牛の分娩後の血中カルシウム(Ca)濃度に及ぼすゼオライトA給与の影響を明らかにする目的で,分娩前3週間ゼオライトA(400g/日)を給与した給与群(27頭)とカチオン・アニオン差(DCAD)調整飼料(−3.2mEq/100g)を給与した対照群(22頭)の血液性状を比較した.血清Ca濃度の推移に差がなく,活性型ビタミンD濃度は給与群において分娩当日に有意な高値を示した.両群とも分娩日に血清Ca濃度が低値を示した牛は,翌日正常値に回復した.給与群は血清遊離脂肪酸濃度が高く,総コレステロールとアルブミン濃度は低く推移した.分娩前3週間のゼオライトA給与は,DCAD調整飼料の給与と同程度に分娩後の血中Ca濃度の低下を軽減する効果があり,分娩性低Ca血症の予防に応用可能と考えられた.
外眼部疾患の馬から分離された45菌種120菌株に対するロメフロキサシンのin vitro抗菌活性を評価した.同時にオフロキサシン,ゲンタマイシン及びクロラムフェニコールについても試験し,比較した.ロメフロキサシンの90%の菌株が発育阻止される最小発育阻止濃度(MIC90)はグラム陰性菌で2μg/ml,グラム陽性菌で4μg/mlであった.他の3つの抗菌薬と比較すると,グラム陰性菌に対する抗菌活性はオフロキサシン及びゲンタマイシンと近似した成績で,クロラムフェニコールよりも優れていた.グラム陽性菌に対する抗菌活性はオフロキサシン及びゲンタマイシンより劣り,クロラムフェニコールと同等であった.ロメフロキサシンの抗菌活性はその薬物動態からいずれの細菌に対しても臨床的には十分なものと思われ,他の3つの抗菌薬と同等以上の効果をもたらすことが期待された.
2017年8月,北海道十勝管内の黒毛和種牛が流産した.母牛の胎盤組織は真菌感染を伴う壊死性胎盤炎を呈し,組織中の真菌の形態はAspergillus 属真菌に類似していた.一方,胎盤から分離された真菌は,形態的特徴及びDNAのITS領域の分子生物学的解析によりScedosporium apiospermum complexと同定され,本症例の流産は本真菌の感染が原因と考えられた.本真菌は日本国内でも土壌や河川の水中に広く生息し,人では難治性肺炎の原因の一つとして知られている真菌である.しかし,畜産分野における症例報告は少なく,これまで日本国内で牛の流産胎盤から本真菌が分離された報告はない.本真菌の組織中の形態はAspergillus 属真菌にきわめて類似しており,診断には分子生物学的解析の併用が不可欠と考えられた.
2歳のヨツユビハリネズミ(Atelerix albiventris)に左前肢を大きく取り囲む硬い腫瘤を認めた.X線検査で,橈骨及び尺骨近位端の骨融解と腫瘤内部に透過性の低い領域を認めた.肩甲骨から断脚し,病理学的検査を実施した.橈骨及び尺骨近位部を破壊して増殖する腫瘍細胞が認められ,類骨を産生し,過ヨウ素酸シッフ陽性,アルシアンブルー陽性,マッソントリクロームに青染する間質組織を伴っていた.同細胞はVimentin及びS-100に陽性であった.以上の所見より骨性骨肉腫と診断した.経過は良好だったが,術後297日に肺転移像が認められ,術後312日に斃死した.病理解剖により骨肉腫の肺転移が確認された.本症例は,術後10カ月の良好な生存期間が得られ,ハリネズミの四肢に発生した骨肉腫には,断脚が有効な治療になり得ると思われた.
人や家畜での伝播が懸念されるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)及びコリスチン耐性遺伝子保有腸内細菌科細菌について,薬剤耐性菌制御の指標とするため,2018年4月~2019年3月に沖縄県の豚,鶏における保有実態を調査した.CREは検出されず,コリスチン耐性遺伝子(mcr-1,mcr-3,mcr-5 )を保有するEscherichia coli,Escherichia fergusonii,Escherichia albertii,Klebsiella pneumoniae が健康豚38.1%,食鳥検査で全部もしくは一部廃棄となった鶏40.8%から分離された.今回コリスチン耐性菌選択培地を使用したため陽性率が他の報告より高い傾向にあるが,県内へ広く浸潤しており,今後もその推移について継続したモニタリングが重要である.
著者らは,新潟県で豚から分離されたS. Rissen(26株)について,他地域の豚由来株(5株),人由来株(10株)及び飼料原料由来株(1株)との関連性を検討した.豚由来S. Rissenに関しては,新潟県の株と他地域の株は遺伝的に近縁であることから,他地域の養豚場に定着したS. Rissenのクローンが,その後,新潟県の養豚場に侵入したと考えられた.人由来S. Rissenは起源の異なる2グループと考えられ,一つは豚由来株と遺伝的に近縁で薬剤耐性パターンが豚由来株と一致したことから,人のS. Rissen感染源の一つは保菌豚由来のS. Rissenに汚染された豚肉と考えられた.今回検討した飼料原料由来株は豚由来株とPFGE型も薬剤耐性パターンも異なり,供試豚のS. Rissen感染と当該大豆油かすは無関係と考えられた.