牛白血病ウイルス(BLV)陰性の5歳のホルスタイン種雌牛において,形質細胞への分化を伴う慢性リンパ性白血病が認められた.腫瘍細胞の増殖により全身性にリンパ節が腫大し,さまざまな部位で腫瘍細胞の囲管性浸潤や集簇がみられた.腫瘍細胞は多種類の構成細胞から成り,リンパ球様細胞と形質細胞様細胞に分けられた.これらの細胞は免疫組織化学的にCD20とCD5が陽性で,形質細胞様細胞の細胞質内には免疫グロブリンM(μ鎖,λ鎖)の存在が証明された.一部に免疫グロブリン陰性の大型リンパ球様細胞の集簇巣があり,これは大細胞型リンパ腫への組織学的移行(大細胞転化)を示すと考えられた.CD5が発現し,形質細胞様細胞の細胞質が比較的乏しい本症例は,CD5が陰性で,腫瘍性形質細胞の細胞質が豊富なリンパ形質細胞性リンパ腫とは容易に区別された.
2018年,わが国で26年ぶりに飼養豚と野生イノシシにおける豚熱の発生が確認された.現在,野生イノシシを介した豚熱の拡散を防ぐため,経口生ワクチンが野外に散布されている.豚熱検査に使用されるコンベンショナルまたはリアルタイムRT-PCR法は,豚熱ウイルス国内流行株と経口生ワクチン株を識別できないため,ワクチン散布地域の陽性検体は,サンガー法によりRT-PCR産物の塩基配列を決定し,ウイルス株を識別している.本研究では,近年普及し始めた小型で安価なナノポアシーケンサーを用いて国内流行株と経口生ワクチン株の塩基配列を決定し,ウイルス株の識別を試みた.その結果,豚熱ウイルス遺伝子が検出された野生イノシシ29検体のうち28検体でウイルス株を識別でき,解析終了まで4~5時間を要するサンガー法と比較して,識別までの時間を2時間以上短縮できることが示された.
東海地方の家畜におけるEscherichia albertii(E. albertii )の保菌状況を明らかにするため,2018~2019年に名古屋市管内と畜場に搬入された牛39頭(10農場)及び豚124頭(22農場)の直腸便を供試した.11農場(50%)の豚でスクリーニング陽性検体を認め,E. albertii は10農場(45.5%)20頭(16.1%)から分離された.20株中17株(85%)が何らかの抗菌薬に耐性を示した.パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法で20株は5グループに分類された.E. albertii を分離した3農場の豚114頭を2020年に追加調査し,分離された18株は農場ごとに同じPFGEグループに分類された.以上,E. albertii は農場で長期間維持されることが示唆された.