2023及び2024年,北海道空知管内A町で,牛のサルモネラ症(本症)が3例発生し,発生農場では,野生動物の侵入が衛生管理の問題の一つであった.そこで,本症の発生・まん延に野生動物の関与を疑い,捕獲された野生動物のサルモネラ保菌状況調査を実施したところ,Salmonella Typhimuriumが分離された.さらに,野生動物由来株及び家畜由来株の分子疫学的解析では近縁で,これらは,近年の分離株と同様に多剤耐性であった.農場における本症を含めた家畜感染症の発生予防及びまん延防止のため,野生動物の侵入防止対策の徹底が必要である.
本研究では,愛媛県の飼養豚及び県内で捕獲された野生イノシシにおけるA型インフルエンザウイルス(IAV)抗体保有状況を調査した.試験には,2022年に豚を検査対象とした動物用体外診断用医薬品として承認を受けた市販のEnzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)キットを使用した.飼養豚におけるIAV抗体農場陽性率は,繁殖豚66.7%,肥育豚38.9%,個体陽性率は,繁殖豚28.3%,肥育豚13.9%であったことから,IAVが愛媛県の養豚農場に広く浸潤していることが示唆された.また,野生イノシシにおけるIAV抗体陽性率は1.6%であったことから,愛媛県において野生イノシシがIAVの感染環に関与している可能性は低いと考えられた.
乳牛において卵巣腫大の原因としては卵胞囊腫や顆粒膜細胞腫があげられる.顆粒膜細胞腫の診断指標としては血中抗ミューラー管ホルモンの高値が有用とされている.今回,顆粒膜細胞腫に特徴的な無発情,乳房の異常発達,直腸検査での片側性卵巣腫大,及び蜂の巣様構造を示す卵巣超音波画像に加えて,血中の抗ミューラー管ホルモンの高値も共通所見として確認された乳用育成牛の2症例に対して,立位膁部切開による卵巣摘出術を行った.摘出された卵巣に対して病理組織学的検索を行ったところ,それぞれ卵胞囊腫,顆粒膜細胞腫という病理組織学的診断であった.今回の比較により抗ミューラー管ホルモンの高値では顆粒膜細胞腫を必ずしも確定できないことが示唆された.
千葉県の犬で認められたHepatozoon canis 感染について報告する.症例は2024年3月に千葉県の山中で保護された年齢不詳の雌の雑種犬であり,乳腺腫瘍切除に伴い摘出された鼠径リンパ節において,病理組織学的検査により偶発的にHepatozoon属のメロントが検出された.また,血液塗抹標本では好中球細胞質内にガモントが認められ,さらに18S rRNA遺伝子解析によりH. canisと同定した.臨床的には異常所見を認めなかったが,本症例は国内で従来報告がなかった関東地方への本原虫の分布拡大を示唆する.したがって今後は,以前から流行地域とされている地域以外においても犬の原因不明の発熱や貧血を認めた際には,鑑別診断の一つとして本原虫感染症を考慮する必要がある.また,本原虫の伝播に関与するマダニの種の特定や,地域分布,野生動物を含めた疫学的調査の必要性が示唆される.
羽包細胞腫に罹患した46~50日齢の肉用鶏8例を病理学的に検索した.背側腰部や大腿外側を含むさまざまな皮膚領域に長径2~16 cmの楕円形,境界明瞭で硬固な淡黄色結節または隆起性塊状物が単在または多発していた.割面上,病巣は多数の空隙よりなり,内腔に淡黄色の乾酪物質を満たしていた.組織学的に,病巣は真皮に限局する多房性構造物であり,大きさと形状が多彩な囊胞により構成されていた.各囊胞は角化亢進並びに基底細胞及び棘細胞の過形成を伴う重層扁平上皮により内張りされ,内腔に羽枝及び小羽枝を含む羽組織の残遺物及び層状に集積したケラチンを満たしていた.基底細胞から羽上皮構造物への分化を伴う多房性囊胞により特徴づけられる組織像から,検索例は羽包細胞腫と診断された.本例は肉用鶏における羽包細胞腫の初報告である.