Mycoplasma bovis は乳房炎,肺炎,関節炎及び中耳炎等のさまざまな牛疾病を引き起こす.今回,効果的な治療の実践及び抗菌剤の慎重使用を目的に新潟県内の牛由来M. bovis 37株の薬剤感受性調査と分子疫学解析を行った.全株が16員環マクロライド系及びテトラサイクリン系抗菌剤に低感受性の特徴を持つ遺伝子型群に属した.薬剤感受性試験でこれらの抗菌剤に全株,ツラスロマイシンに4株,フルオロキノロン系(FQ系)抗菌剤に9株が低感受性を示し,薬剤感受性低下に関与する一塩基多型(SNP)解析結果とおおむね一致した.SNP解析は迅速かつ適切な抗菌剤の選択を可能とする検査法であり,M. bovis 感染症にフェニコール系抗菌剤は有力な選択肢となり,第二次選択薬に15員環マクロライド系またはFQ系抗菌剤が有用と考えられた.
山形県内の一酪農場で,2020年11月から12月にかけて搾乳牛9頭の乳汁でMycoplasma bovis(M. bovis)感染を確認した.感受性抗菌剤による治療を実施し,治療後もM. bovis 感染が認められた牛(不顕性感染牛)を淘汰し,終息に至った.約2年後,M. bovis 乳房炎が多発し,分離株のパルスフィールドゲル電気泳動,Multilocus sequence typing,最小発育阻止濃度,薬剤感受性に関与する一塩基多型解析の結果から,同一由来株が原因である可能性が高いことが示唆された.その後,新たに乳房炎に罹患した牛はすべてM. bovis 検査を行い,感受性抗菌剤による治療と不顕性感染牛の淘汰により2024年2月に終息に至った.その間,のべ63頭のM. bovis 乳房感染牛を確認し,21頭を淘汰した.一方,M. bovis 乳房炎の治療後3カ月の間にさまざまな微生物による乳房炎再発が57.1%の牛で認められた.これはM. bovis 乳房感染による宿主免疫応答の疲弊化による影響と考えられた.
抗菌剤の使用は薬剤耐性菌の選択及び腸内細菌叢の撹乱を起こす.生菌剤により抗菌剤の影響を制御することが期待されるが,有効な制御法については明らかでない.そこで今回,健康な哺乳子牛へ,抗菌剤としてセファレキシン(CEX)と生菌剤として酪酸菌(Clostridium butyricum)を異なるタイミングで投与し,薬剤耐性菌の選択及び腸内細菌叢の変化について,それぞれ培養法及び16S rRNAアンプリコンメタゲノム解析によって評価した.結果,抗菌剤に先行して生菌剤を投与したところ,抗菌剤のみを投与した場合に比べて,セファロスポリン耐性大腸菌の分離割合が低く抑えられ,腸内細菌叢の変動も抑制された.以上のことから,抗菌剤に先行して生菌剤を哺乳子牛に一定期間投与することで,薬剤耐性菌の選択が抑制され,腸内細菌叢の撹乱も緩和される可能性が示された.
牛の傷害サツマイモ中毒の診断に必要な飼料中イポメアマロン(IP)の同定法について改良を検討した.従来法は抽出に要する作業工程が煩雑で2~3日を要し,人体及び環境に有害なクロロホルムを使用する必要があった.今回の検討により,試料の凍結乾燥,粗抽出液の酸洗浄及びアルカリ洗浄等の精製工程の一部を省略することができた.さらに,クロロホルムの代替に酢酸エチルを使用した改変酢酸エチル法(改変EA法)を検討したところ,十分なIP同定能が認められ,作業時間は1日に短縮できた.また,供試飼料重量は1/5に,有機溶媒使用量は大幅に削減できた.改変EA法は特殊な機器が不要で,従来法よりも操作が簡便かつ短時間で実施でき,有機溶媒曝露の観点から安全性に優れるため,きわめて有用である.
近年,薬剤耐性菌の問題が深刻化しており,愛玩動物においても抗菌薬の適正かつ慎重な投与が求められている.獣医外科領域では手術部位感染(SSI)の予防を目的に抗菌薬が投与されるが,術後の継続投与に関するエビデンスは十分でない.そこで麻布大学附属動物病院において清潔創及び準清潔創に分類された軟部組織外科手術を受け,術後24時間以内に予防的抗菌薬投与を終了した犬猫291例を対象にSSI発生状況及びリスク因子を調査した.その結果,SSIは20例(6.9%)で認められ,麻酔時間(P=0.002),麻酔中の低血圧(P=0.010)がリスク因子として特定された.この結果から,清潔創及び準清潔創に分類された軟部組織外科手術において,術後24時間以内の予防的抗菌薬投与終了はSSI発生の増加に寄与しないことが示唆された.
犬と猫の血液透析には動物用血液透析装置または人用の多用途血液処理用装置が用いられる.しかし,動物用血液透析装置は透析液流量を300 ml /min未満に設定できないため,低体重の犬猫には高い透析効率となる.多用途血液処理用装置は血液回路のプライミングボリューム(以下,PV)が30~50 ml 程度と多い.そこで,本研究ではこれらの問題を解決するために,犬猫への輸液ポンプを用いた血液透析の施行が可能か基礎検討を行った.本研究では輸液ポンプ3台とシリンジポンプ1台,血液・医薬品加温器1台で血液透析システムを構成した.本システムの血液回路PVは19 mlと既存装置よりも少なく,流量誤差は±5%以内であった.返血液温度は30℃を下回るが,透析液流量を低流量にすることで透析効率を低下させることが可能であった.