牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)のプロウイルス量(PVL)定量法であるBLV-CoCoMo Dual qPCR法(Dual-CoCoMo法)の簡便・迅速かつさらなる高感度化を目的とし,Dual-CoCoMo法に用いるDNA抽出法の検討を行った.DNA抽出について,従来のWizard法と新たに選択したPure SPIN法を比較したところ,Pure SPIN法のDNA収量はWizard法に比べて高かった.そこで,得られたDNAを用いてPVL定量を行ったところ,既存法で最も高感度であるWizard法+Single-CoCoMo法で陰性となった6検体は,Pure SPIN法+Dual-CoCoMo法では全てPVLが定量され,本手法は高感度にPVLを定量できることが示された.
日本で流行している豚熱ウイルス(CSFV)JPN/1/2018株は,中等度病原性を持つと評価されており,栃木県内では過去5年間で6農場で豚熱が発生した.合計23頭の豚熱の患畜を対象に病理組織学的検査を行い,病変をスコア化して評価及びその要因検討を行った.検査の結果,脾臓,腎臓,体表リンパ節に出血性及びリンパ球減少の病変がみられたが,スコアを変動させる要因については解明に至らなかった.また,免疫組織化学的検査(IHC)とあわせてin situ hybridization(ISH)を実施したところ,ISHの方がIHCよりも感度が高かった.さらに,ISHでは,脳炎病変に一致した陽性シグナルを認め,CSFVと脳炎との関連性が証明された.
愛知県の養豚場では豚熱ワクチン接種が2019年10月に開始されたが,免疫獲得率(テイク率)が低い農場が散見されている.本研究の目的は豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)感染と豚熱ワクチンテイク率の関連を評価することである.69農場を対象とし,PRRSV野外感染状況に基づきPRRS感染ステージを5段階に分類するとともに,その他の因子も合わせてテイク率との関連を解析した.一般化線形モデルによる統計学的解析の結果,農場内で垂直感染が進行している状況を示すPRRS感染ステージ2(推定値−1.303,p<0.001)の農場,並びにPRRSVワクチン接種を実施(推定値−0.525,p<0.001)している農場でテイク率が低かった.PRRS感染ステージ2の農場割合は7.2%であり,これら農場のPRRS感染ステージを改善することで地域全体のテイク率が改善する可能性がある.
2022年10月に9カ月齢の肉用雄子牛が肺炎症状を呈し死亡した.肺から牛ヘルペスウイルス4型(BoHV-4)が分離され,免疫染色で肺の病変部からBoHV-4陽性反応がみられたことから,BoHV-4が肺炎の病理発生に関与したことが疑われた.そこで2018から2021年の間に十勝地域で採取した牛の血清166検体の抗体検査を遡って実施し,BoHV-4浸潤状況を調査したところ,抗体陽性率は51.8%を示した.また,2018から2021年の間に,肺炎症状があった牛の肺のパラフィンブロック98検体から遡ってPCR検査を実施し,4検体からBoHV-4遺伝子を検出し,免疫染色で1検体からBoHV-4抗原を確認した.以上から,BoHV-4は既報結果と比較して十勝地域に広く浸潤しており,肺炎の病変形成または増悪化に関与する可能性が示唆された.
2021年以降,わが国では牛結核の清浄性維持を目的としてサーベイランスが継続されている.近年,ツベルクリン検査及びIFN-γアッセイにより疑似患畜と判定された牛から,Mycobacterium bovis 以外の非結核性抗酸菌(NTM)が分離され,検査特異性への影響が懸念されている.本研究では,国内の疑似患畜3例から分離されたNTM5株について遺伝子解析を行い,そのうち3株は環境に生息するM. terrae complexに近縁な同一菌種であると判定された.これらのNTM死菌で感作したモルモット及び牛では,検査用抗原に対する非特異反応が確認されたことから,環境中のNTMへの暴露が検査結果に影響する可能性が示唆された.一方,結核菌特異的なペプチドカクテルPC-ECを用いたIFN-γアッセイでは非特異反応は認められなかった.以上より,本ペプチドカクテルを現行抗原であるM. bovis 由来の精製タンパク質B-PPDと併用することで,牛結核検査の精度向上が期待される.
H9N2亜型鳥インフルエンザウイルス(AIV)は,アジア,中東及びアフリカの家きんにおいて流行している.国内の家きんに感染した場合,既存の高病原性鳥インフルエンザを対象とした検査だけでは同定できないため,迅速な診断が難しい.本研究では,Y439,G1及びY280の3系統のH9N2亜型AIVを用いて,リアルタイムPCRの既報5法の検出感度を共通条件下で比較した.その結果,Saito法が最も高感度であったが,G1系統の一部の株ではプライマー標的配列間ミスマッチにより感度低下が認められた.そこで混合塩基を導入した改良プライマーを設計したところ,3系統全株で高感度を示し他亜型AIVや他病原体との交差反応も認められなかった.本検査法はH9N2亜型AIVを特異的かつ高感度に検出でき,国内の検査体系の補完に有用と考えられる.
接触式ソフトメンブレン超音波生体顕微鏡(SM-UBM)を用いて犬の隅角検査に関する基礎的検討を行った.ソフトメンブレン(SM)を機器説明書に従って装着すると鮮明な隅角画像は得られなかったが,その装着位置を嵩上げすると,鮮明な同画像が得られた.そこで,解凍豚眼を用いてSM装着位置を1-3 mm嵩上げして毛様体溝様構造部の開口部距離と面積を計測し,検者内と検者間の信頼性を評価した.その結果,最適SM装着位置はそれを3 mm嵩上げすることであった.この条件で犬隅角を撮像したところ,SMの3 mm装着位置は従来型UBMと同等以上の隅角画像が得られ,獣医領域でSM-UBMを使用する場合にはSMの3 mm装着位置が最適条件であることが示された.本条件を用いることで,犬隅角を安定してSM-UBMで評価できるものと考えられた.
犬の催吐処置において,ロピニロール点眼とトラネキサム酸静脈内投与の有効性及び安全性を回顧的に比較検討した.2021年から2023年に日本動物医療センターで催吐処置を実施した犬1,161例を対象とし,トラネキサム酸投与群(TXA群581例),ロピニロール点眼群(ROP群580例)に分類した.さらに両剤併用に至った症例を併用群(R&T併用群74例)とした.初回催吐成功率はTXA群25.0%,ROP群70.7%であり,有害事象はTXA群1.9%,ROP群3.1%であった.R&T併用群では91.9%の高い催吐成功率が得られ有害事象は認められなかった.以上の結果,ROPは初回投与においてTXAより高い催吐成功率を示した.また,両剤の併用は安全に実施可能であり,臨床現場における有用性が示唆された.
麻酔中に重度な全身循環不全を起こした犬が,覚醒時に異常行動や神経学的異常を引き起こした.症例は吸入麻酔中にプロポフォールを追加注射し,直後に血圧・心拍の低下から心静止及び自発呼吸停止となった.胸部圧迫,人工呼吸とアドレナリンの注射を行い,心拍・呼吸は2分以内に再開し,血圧もノルアドレナリンの持続定量点滴によって30分で正常化した.しかし,その後激しい非協調性の運動と発声がみられたため,覚醒時にせん妄を疑いさまざまな治療を行った.メデトミジン,ベンゾジアゼピンなどは十分な効果は得られず,約20時間後に投与したアルファキサンによって安定化が得られた.麻酔中の循環不全が,重度で長時間続いた異常行動や神経学的異常を引き起こしたと考えられた.
体外循環下開心術で用いられるプロタミンは投与後に低血圧を起こすことがあるが,その機序は不明である.本研究ではその要因を検討した.研究1ではプロタミン誘導性低血圧(PIH)の用量依存性を4 mg/kgと2 mg/kgを各6頭で比較した.研究2では同一12頭に1 mg/kgを投与し,アレルギー関与の可能性を検討した.平均動脈圧とPIH発生数及び発生時間を測定した.その結果,PIHの77.8%は投与開始10分以内に発生した.抗ヘパリン作用に差はなく(P=0.552),4 mg/kg群でPIH発生が多い傾向を示したが,統計学的有意差は認められず,投与量との関連は明確ではなかった(P=0.221).アレルギー関与は証明も否定もできなかった(P=0.558).
膵臓の消化管重複囊胞に罹患した45日齢の肉用鶏1例を病理学的に検索した.直径30 mmの球状囊胞が膵臓のほぼ中央部に密着し,密着領域の腹葉及び背葉を分離していた.囊胞は単房性で,ほぼ平滑な内面を有し,内腔に淡白色粘液を満たしていた.囊胞と膵管,総胆管または肝腸管との交通はなかった.病理組織学的に,囊胞壁は腸粘膜上皮に類似する内張り上皮,固有層,平滑筋層及び被膜により構成されていた.囊胞に密着した膵臓の一部領域において,膵腺房腔の拡張を伴い膵細胞が変性し,間質の囲管性領域にリンパ球が浸潤していた.膵臓が囊胞を囲む位置関係から,囊胞形成に関わる胎生期の異常が,膵臓原基が現れる前に開始したと推察された.本症例は鶏に発生した膵臓の消化管重複囊胞の初報告である.
2023年8月~2024年8月に所管と畜場に搬入された馬の盲腸便と牛の直腸便を採取し,増菌培養後,志賀毒素産生性大腸菌(STEC)の遺伝子検索を行い,陽性検体から菌分離を試みた.その結果,馬では141頭中1頭(0.7%)から非主要血清群STEC,牛では226頭中24頭(10.6%)から同菌(Og157:Hg7 1頭,Og26 1頭,非主要血清群 22頭)を分離した.また,牛のSTEC保菌率に時季による有意差はなかった.馬のSTEC保菌率は牛のそれに比べて有意に低く,と畜解体処理時における馬消化管内容物由来STECによる馬枝肉汚染リスクは低いことが示唆された.一方,牛では時季を問わずSTECを一定程度保菌している可能性が示されたことから,と畜場は二次汚染対策を含めた衛生管理の徹底を常に図っていく必要がある.