牛のサルモネラ症は近年増加傾向にある.中でも,Salmonella enterica serovar Dublin(SD)が感染した場合,糞便中への排菌が間欠的で,分離培養による汚染度把握が困難であることが課題である.本研究では,SD対策として,農場汚染度を迅速に把握し,衛生管理を向上させることを目的に,SD由来のLPS抗原を用いた間接ELISA系(SD-ELISA)を確立した.SD発生農場における実地調査では,129頭中,菌分離された1頭を含む48頭がSD-ELISA陽性であり,SD-ELISAが農場の汚染を把握できる手法であることが示された.SD-ELISAの結果と症状や疫学情報を併せて総合的に判断することにより,農場の早急なまん延防止対策に貢献できる可能性がある.
農場HACCP認証数が横ばい傾向にある原因を把握するために,HACCP導入30農場に計3回のアンケート調査を実施し,それぞれ回答を得た.加えて,乳用牛,肉用牛,養豚(計6農場)のHACCP導入後の生産物の安全性及び生産性データを解析した.アンケートの結果,HACCP運用にデジタルツールが必要との回答は13農場中11農場,HACCP導入後の生産性が増加したとの回答は16農場中5農場(デジタルツール導入12農場中6農場)であった.また,協力農場全てで,重要管理点(CCP)の管理基準の逸脱はなく,安全性は確保された.一方,6農場の衛生管理目標15項目中,1度でも達成したのは5農場11項目であった.HACCPの普及には,生産性向上に向けた段階的評価の枠組み構築と有効なデジタルツールの開発・活用が必要と考えられた.
本研究では,茨城県の豚熱(CSF)発生3事例(1,2,3例目:CSFワクチン未接種,接種10日後,接種約90日後)を比較し,特に,ワクチン接種後約90日を経た肥育豚群で発生した3例目の特徴を解析した.1例目及び2例目では,出血性病変,高ウイルス量,他豚舎への水平伝播が認められた.これに対し,3例目では出血性病変を認めず,Ct値は高値で,FA法,ウイルス分離,環境中遺伝子はいずれも陰性であった.加えて,他豚舎への水平伝播を認めず,中和抗体価の高い個体は発生豚舎に限局していた.さらに,解剖個体の主要病変は肺炎及び心外膜炎であり,CSFが死因の主因ではないと推察された.以上より,CSFワクチン接種が病理変化の抑制,ウイルス増殖の低減,環境汚染及び水平伝播の抑制に寄与した可能性が示唆された.
2023年10月,山口県の1農場において黒毛和種繁殖雌牛の流産が発生した.病理組織学的検査では,流産胎子において肝細胞のびまん性の変性,萎縮及び壊死等が確認され,その他検索した臓器に特筆すべき所見は認められなかった.ウイルス学的検査では,胎子の主要臓器から流行性出血病ウイルス血清型6(EHDV-6)遺伝子が検出され,静置培養では分離されなかったが,BHK-21細胞の回転培養により胎子肝臓からEHDV-6が分離された.分子系統解析の結果から,分離されたウイルスは過去に国内で検出されたEHDVと同様に,東アジアやオーストラリアで検出されるEastern groupと確認された.本事例は,牛の流産胎子からEHDV-6が分離された国内初の報告である.
神奈川県食肉衛生検査所で発見された牛の悪性褐色細胞腫1例及び褐色細胞腫5例の病理学的特徴を解析した.症例は,いずれも高齢の黒毛和種,ホルスタイン種であった.腫瘍は,悪性褐色細胞腫罹患牛では左副腎,後大静脈及び両肺に,褐色細胞腫罹患牛では片側または両側の副腎に認められた.腫瘍細胞は毛細血管を含む狭い結合組織で区画され,胞巣状または索状に配列していた.褐色細胞腫の腫瘍細胞は,悪性褐色細胞腫と比較し,顕著な多形性が認められた.腫瘍細胞はクロモグラニンA及びシナプトフィジンに陽性を示し,Ki-67陽性率は,悪性褐色細胞腫が褐色細胞腫よりも低値であった.本調査により,病理組織学的に著しい多形性や増殖能を示さず,転移する症例が確認され,牛においても本腫瘍は人と類似し,病理組織学的に良悪性の鑑別が困難である可能性が示された.
本研究では,A型肝炎ウイルス(HAV)の検出に冷凍アサリのドリップが利用可能かを探索的に検討した.通知法に基づく超遠心法をドリップに実施したところ,沈渣がゲル化して核酸抽出が困難であったが,アミラーゼによる前処理を行った結果,沈渣はゲル化せずドリップからHAVが検出された.また,再凍結・再解凍後の2ndドリップからもHAVが検出され,一部の検体では1stドリップより高い定量値を示した.これは急激な温度変化に伴うウイルス漏出量の変化が生じ得ることを示唆するが,検体によって挙動が異なり,一定の傾向は認められなかった.従来の二枚貝検査では中腸腺の切り出しや不要組織の除去が必要であり,核酸抽出阻害物質の混入が避け難い.一方,ドリップは採取が容易で組織片を含まないことから,補助的検体として利用し得る可能性が示唆された.