アルカン分子 (CH
4とC
2H
6) のPt (111) 表面での衝突によるエネルギー散逸過程 [(1) 分子の内部エネルギーに変換 (内部エネルギー励起) (2) 固体表面にフォノンを励起 (直接的非弾性衝突) (3) 分子の立体構造変形及び分解反応] を (1) 散乱分子線強度の角度分布 (2) Heの等角散乱強度 (3) 散乱分子線の飛行時間分布, 等を軸とする分子線散乱解析技術を用いて明らかにした.
(1) 直接的非弾性衝突が支配的な低運動エネルギー (190meV~350meV) ではCH4及びC
2H
6のPt (111) 表面での散乱は古典モデルの予測に定性的に一致する.即ち, 分子構造に無関係に質量のみが両分子の散乱過程の差異を支配する.予測からのずれは内部エネルギー励起, 特に回転励起の程度と共に増加する.
(2) 中エネルギー領域から高エネルギー領域 (500meV~700meV) にかけては, 解離反応が進行し, 反応生成物としてエチルダイン基 (低い表面温度) やグラファイト (高い表面温度) が表面に析出する.C
2H
6はCH
4に比べてエチルダイン基への解離のための活性化エネルギーが約0.1eV低いため解離が容易である.
(3) 反応生成物によりPt (111) 表面は修飾を受け, 表面凹凸の増減や, 表面原子の実効的な質量の低下, 表面のデバイ温度の増加等が生じる.この結果, 反応のダイナミクスも大幅な変化 (エネルギー散逸機構, 反応の確率, 散乱分子の速度分布等の変化) を示すようになる.
(4) 本報告では詳細を示さなかったが, 上記の反応はER機構に独特で分子線の照射位置のみに限定されている.また, 単原子層以上の反応生成物の析出はないことが, LEED観察, AES測定, 及び仕事関数計測により明らかになった.
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