高度成長期に注目を集めた工業用水問題は,戦後の日本工業で顕在化した事業所規模の大型化と重化学工業化をつよく反映したものであった。さらに,工業用水の需要増大に対応する供給体制の構築という課題を実現していく過程で,かなりの地域的偏在を伴ったため,社会資本の形成における地域格差発生の一翼を担うことになった。
工業用水道の拡大過程で,工業用水計画と需給の乖離がみられるようになったが,これは従来の工業用水政策に不可避的に存在するものであった。この問題を解明するために,本研究では工業用水政策を支えた理念とその変化に立ち入って検討した。そのうえで,工業用水政策につよい影響をもつ地域政策と,水管理のあり方にかんする考察とを統合することが,今後の工業用水政策を構想するうえで重要なことを示した。
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