【目的】本症例報告の目的は,腹壁瘢痕ヘルニアを有する女性の腹圧性尿失禁に骨盤底筋トレーニング(Pelvic Floor Muscle Training;PFMT)を行い改善した症例を報告することである。【症例】対象は約2年前から尿失禁がある80歳台後半の女性である。既往に腹壁瘢痕ヘルニアがあり,腹腔内圧が上昇する介入は禁忌であった。介入は週2回の訪問リハビリテーションによるPFMTと骨盤底筋の収縮するタイミングを最大限に意識する練習,セルフエクササイズを実施した。測定項目は排尿日誌による7日間の合計尿失禁回数,International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(ICIQ-SF),快適歩行速度を測定し,開始時,3,6,9ヵ月の時点にて測定した。主要アウトカム評価項目は7日間の合計尿失禁回数とした。副次アウトカム評価項目はICIQ-SF,快適歩行速度であった。【結果】尿失禁の回数[開始時 / 3ヵ月 / 6ヵ月 / 9ヵ月]は,7日間では[24 / 11 / 8 / 3(回)]と改善した。ICIQ-SFスコアは,[14 / 7 / 5 / 3 点]であった。快適歩行速度は,[0.41 / 0.58 / 0.67 / 0.71(m/sec)]と改善した。また,腹壁瘢痕ヘルニアの悪化や腸管閉塞の所見は見られなかった。【考察】腹壁瘢痕ヘルニアの患者であってもPFMTはヘルニア嚢の増悪を発生させずに尿失禁を改善させる可能性がある。しかし,PFMTを行う際は腹腔内圧を上昇させないように注意することが必要である。
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