本稿の目的は、18世紀末から19世紀初頭にかけてのイギリスで「アンチ・ジャコバン小説」を多く著したことで知られるジェイン・ウェスト(Jane West, 1758-1852)を、政治論に通じたひとりの女性思想家としてとらえ直し、「正統」保守と呼びうる彼女の思想的立場とその議論の特徴を解明することにある。とくに注目するのは、ウェストが英国国教会高位聖職者トマス・パーシーの支えのもと、女性の立場から保守的な政治思想を表明することになった『ある若者への手紙』(1801年)という著作である。この著作の分析を通じて、本稿はウェストが、同時代のメアリ・ウルストンクラフトやウィリアム・ゴドウィンにみられるような急進主義の台頭だけでなく、保守派の女性思想家ハナ・モアに象徴される福音主義の動きにも対抗する意図をもち、さらには自身が政治的には共鳴する保守思想家エドマンド・バークのジェンダー観にたいしても、一定の批判的まなざしを投げかけていたことを明らかにする。
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