メカノソープティブ(MS)クリープのメカニズム解明のための一つの試みとして,異なるレベルの脱リグニン処理をヒノキ放射方向試験片に行い,MSクリープに及ぼす脱リグニンの影響を検討した。前報では,瞬間コンプライアンス並びに3種類の荷重条件下における5回の水分サイクル後のトータルコンプライアンスの結果について紹介した。本報告では,水分サイクルで生じたセットの回復について,吸湿または脱湿の単一プロセスによって生じたセットの回復結果と比較検討した。
脱リグニン処理レベルは,前報で述べた,弱(W),中(M),強(S)の3種類である。また無処理材をコントロール試験片(C)として用意した。水分サイクル試験片では,荷重条件は,“Ad”,“Da”,“AD”の3種類である。単一プロセス試験片の“A”は吸湿時負荷,“D”は脱湿時負荷である。吸脱湿の範囲は相対湿度40%~94%とした。曲げ荷重は中央集中荷重,たわみはスパン中央で測定した。これらの試験片について,吸湿過程におけるセットの回復を求めた。
結果を要約すると,
1.徐荷後の残留セット・コンプライアンス (
JS) は脱リグニンによって増加したが,コントロールに対する処理材の
JSの比でみると,瞬間コンプライアンスの比と比例した。このことから,脱リグニン処理はMSメカニズムに顕著な定量的な変化をもたらすが,定性的なシステムは変化しないと思われる。
2.“Ad”と“A”のセットの回復は,どの脱リグニン処理レベルにおいてもDaまたはDより小さい。試験片調整における水分変化範囲内では,“Ad” または“A”の回復は遅く,これを越えると速くなった。“Da”と“D”では逆で,“AD”では一定になった。“AD” の回復曲線は“Ad”と“Da”の回復曲線の重ね合せと一致した。
3.脱リグニン処理によって含水率範囲は拡大し,この上限は回復曲線の変曲点とほぼ一致した。この変曲点前後の回復速度の差は,Ad・A及びDa・D試験片において,脱リグニン処理によって減少した。
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