木材学会誌
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52 巻, 1 号
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総説
  • 北本 豊
    2006 年 52 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/01/31
    ジャーナル フリー
    食用・薬用きのこの生産では,優良種菌と高度な栽培技術により高品質きのこを安価に生産することが求められる。きのこの育種,すなわち種菌開発は,野生きのこの子実体からの組織分離による二核菌糸体の栽培品種化と,栽培中に発生する優良な子実体を選抜する品種改良,それにつづく交配による品種改良が主な流れである。きのこの新品種開発のプロセスは,育種に用いる親株の選定,交配のための一核株作出,交配,交配後の数段階の栽培試験による優良交雑株選抜である。本稿では,まず,きのこの極めてユニークな生物学的特徴を解説し,つづいて,きのこの育種プロセスについて,最近の展開を概論する。
一般論文
  • バンドデンドロメータおよび刺針法との比較
    山下 香菜, 岡田 直紀, 加茂 皓一
    2006 年 52 巻 1 号 p. 8-18
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/01/31
    ジャーナル フリー
    ワイヤデンドロメータでスギとヒノキの肥大成長を2成長期にわたって測定し,アルミ製バンドデンドロメータおよび刺針法による結果と比較した。張力を一定としたしなやかなワイヤを導入することによって,ワイヤデンドロメータではバンドデンドロメータに見られた取り付け時のバンドの弛み,バンドの摩擦や肥大成長にともなうバネの締め付けの影響が軽減された。ワイヤデンドロメータと刺針法とでは,肥大成長の開始時期,急激な成長期から緩やかな成長期への移行時期はほぼ一致したが,ワイヤデンドロメータで木部形成停止時期を判断するのは難しかった。両手法の期間成長量の間には成長期を通じて有意な相関が認められたが,早材形成初期と期間成長量の絶対値が小さい晩材形成期には違いが見られた。木部形成の期間成長量は方位によって一様ではないが,ワイヤデンドロメータによる樹幹周囲長の測定では,樹幹全体の平均的な成長量を非破壊的に連続測定することができた。
  • 放射方向試験片の瞬間及びトータルコンプライアンス
    張 文博, 徳本 守彦, 武田 孝志, 安江 恒
    2006 年 52 巻 1 号 p. 19-28
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/01/31
    ジャーナル フリー
    木材のメカノソプティブクリープ(MSクリープ)は,外力と水分吸着の相互作用によって発生する。この複雑な現象に対していくつかの仮説が提案され,この挙動に関する知識は蓄積されてきた。一つの典型的な現象として,連続負荷のもとでのMSクリープは,負荷下の脱湿/吸湿過程における新たなクリープ変形と,無負荷下の吸湿/脱湿過程におけるセットの回復の重ね合わせに等しいことが示され,あたかも木材は,負荷を受けた含水率変区間を記憶しているかのように振る舞うことが知られている。本報告では,放射方向試験片のMSクリープに及ぼす脱リグニン処理の影響を検討することによって,この疎水性成分のMSクリープに対する役割を明らかにすることを試みた。
    3段階に脱リグニン処理した試験片と,コントロールとして無処理試験片を用いた。負荷条件は以下の3つである:Adサイクル(はじめの吸湿過程で負荷,次の脱湿は無負荷,以後これを繰り返す),Daサイクル(はじめの脱湿過程で負荷,次の吸湿過程は無負荷,以後これを繰り返す),そして連続負荷のADサイクルである。すべての過程に対して含水率サイクルを5回繰り返した。試験温度は20℃一定,相対湿度の変動範囲は,RH40%~RH94%とした。
    強度の脱リグニン処理では,瞬間コンプライアンスJ0とトータルコンプライアンスJTがコントロールに比較して顕著に大きくなった。強度処理における,Ad,Da,そしてADサイクルのJTのコントロールに対する比はそれぞれ5.1,4.0,5.2倍であった。JTはリグニン含有率の減少とともに顕著に増加したが,JTJ0の間に明確な直線関係が認められた。AdとDaサイクルによるJTを重ね合わせると,連続負荷のAD過程のJTにほぼ等しくなった。以上の結果から,脱リグニン処理のMSクリープに及ぼす影響は,定量的に顕著であったが,定性的には大きな変化をもたらさないと考えられた。
  • 放射方向試験片のセットの回復
    張 文博, 徳本 守彦, 武田 孝志, 安江 恒
    2006 年 52 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/01/31
    ジャーナル フリー
    メカノソープティブ(MS)クリープのメカニズム解明のための一つの試みとして,異なるレベルの脱リグニン処理をヒノキ放射方向試験片に行い,MSクリープに及ぼす脱リグニンの影響を検討した。前報では,瞬間コンプライアンス並びに3種類の荷重条件下における5回の水分サイクル後のトータルコンプライアンスの結果について紹介した。本報告では,水分サイクルで生じたセットの回復について,吸湿または脱湿の単一プロセスによって生じたセットの回復結果と比較検討した。
    脱リグニン処理レベルは,前報で述べた,弱(W),中(M),強(S)の3種類である。また無処理材をコントロール試験片(C)として用意した。水分サイクル試験片では,荷重条件は,“Ad”,“Da”,“AD”の3種類である。単一プロセス試験片の“A”は吸湿時負荷,“D”は脱湿時負荷である。吸脱湿の範囲は相対湿度40%~94%とした。曲げ荷重は中央集中荷重,たわみはスパン中央で測定した。これらの試験片について,吸湿過程におけるセットの回復を求めた。
    結果を要約すると,
    1.徐荷後の残留セット・コンプライアンス (JS) は脱リグニンによって増加したが,コントロールに対する処理材のJSの比でみると,瞬間コンプライアンスの比と比例した。このことから,脱リグニン処理はMSメカニズムに顕著な定量的な変化をもたらすが,定性的なシステムは変化しないと思われる。
    2.“Ad”と“A”のセットの回復は,どの脱リグニン処理レベルにおいてもDaまたはDより小さい。試験片調整における水分変化範囲内では,“Ad” または“A”の回復は遅く,これを越えると速くなった。“Da”と“D”では逆で,“AD”では一定になった。“AD” の回復曲線は“Ad”と“Da”の回復曲線の重ね合せと一致した。
    3.脱リグニン処理によって含水率範囲は拡大し,この上限は回復曲線の変曲点とほぼ一致した。この変曲点前後の回復速度の差は,Ad・A及びDa・D試験片において,脱リグニン処理によって減少した。
  • 牧 福美, 青木 務
    2006 年 52 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/01/31
    ジャーナル フリー
    約一年間,種々の居住空間における温度と湿度の変化を観測した。いずれの居住空間でも,夜の9時から朝の6時までの夜間は,窓やドアの開閉が少なくほぼ密閉状態となるため,温湿度変化は昼間のそれと比べて小さく,内装材料などの調湿効果が明確に把握できた。そこで,夜間データを基に各種居住空間の湿度と温度の変化を比較検討した。その結果,一年中を通じて,ログハウスや木造住宅では,夜間の平均湿度は55~70%と快適な状況にあった。一方,RC造の一部の居室では,38~78%と大きく変化した。ただ,居住者がいる場合には,空調設備などを使用するためか,57~72%と快適環境に調整されていることも明確となった。
  • 込み栓打ち込み及び接合部の乾燥が柱木口ー土台間の接触応力に及ぼす影響
    鄭 基浩, 黄 権煥, 小松 幸平
    2006 年 52 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/01/31
    ジャーナル フリー
    伝統的木造接合部における応力伝達機構を理解するための一連の研究の最初の一歩として,ホゾ接合部の接触表面に発生する接触応力に注目した。
    接合部における接触応力の変化に及ぼす乾燥収縮の影響をより正確に測定するため,柱の木口面と土台の側面の接触界面に小型ロードセルを接触させることで,接触応力を連続的に測定できる方法を開発した。
    込み栓には,伝統的に使われるシラカシ込み栓と,部材の乾燥による影響を減らす事によって接触応力の緩和が少ないと期待できるスギ圧縮木材で造った込み栓の2種類を用いた。込み栓穴の嵌合こう差2mmによる込み栓打ち込み効果は,込み栓の曲げ,せん断及び摩擦によって女木側が男木側を引き込み,接触応力を高めるメカニズムが解明できた。
    RH40%乾燥条件におけるシラカシ込み栓接合部は,150日で重量が10%減少,女木側全体寸法が2% 減少し,初期(3 MPa) の14%(1.1 MPa)の接触応力を保った。また,スギ圧縮木材込み栓においては,シラカシと同じ重量と寸法変化を伴い,初期状態の24%(1.5 MPa)の接触応力を維持し,シラカシより接触応力の減少率が相対的に少なかった。これによって,更なる湿度変化による圧縮木材の応力緩和防止効果も期待できる。
ノート
  • 西川 奈緒美, 村山 正樹, 神谷 寛一
    2006 年 52 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/01/31
    ジャーナル フリー
    吸着能と光触媒能を併せ持つ活性炭/TiO2 複合材料を,木質系廃棄物粉体を二酸化チタンゲルでコーティングし炭素化することによって調製した。本研究では,活性炭/TiO2 複合材料の性質に及ぼすTiO2 溶液の調製法,溶液のコーティング法,炭素化条件の影響について検討した。その結果,木粉炭上にTiO2 をなめらかにコーティングするためには,チタンアルコキシドの溶媒にジエタノールアミンを添加することが効果的であることがわかった。また,TiO2 ゾルへのポリエチレングリコールの添加は木材表面に多孔質な膜を作製するのに適していることがわかった。ジエタノールアミンとポリエチレングリコールを添加したTiO2 ゲルをコーティングした木粉を530℃および700℃に加熱することによって得られた複合材料は,メチレンブルー溶液に対して吸着能と光触媒能を同時に示した。
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