木材学会誌
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53 巻, 5 号
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総説
  • 黒田 尚宏
    2007 年 53 巻 5 号 p. 243-253
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    スギ材の利用を促進するためには,原木と品質ニーズに対応できる乾燥技術が不可欠であり,近年乾燥が難しい心持ち材を対象に様々な技術開発と研究が行われた。特に高温処理を活用した割れの防止技術や乾燥の促進技術が開発され,現場への応用が進められている。一方で,乾燥材の品質向上と乾燥技術の高度化に資する,乾燥割れの抑制のしくみや,乾燥処理過程における木材挙動,乾燥材の強度等に関する研究も進められている。そこで,高温下での水分移動の促進,乾燥割れの抑制に関係する因子や,処理材の強度など,高温処理と関連することがらについて考察し,スギ心持ち材乾燥に関係する基礎研究の進展について概説した。
一般論文
  • 吸引下における各種前処理材の仮道管細胞中の液体移動
    飯田 生穂, 山本 賢一, 善田 奈緒, 王 悦
    2007 年 53 巻 5 号 p. 254-261
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,針葉樹3樹種の各種前処理材を用い,仮道管中の液体移動を可視化,連続観察した。得られた結果は,以下の通りである。1)毛管圧浸透による浸透長は,浸透・停滞を繰り返し,前処理によっていずれも増大した。増加の程度は,無処理材≦熱水抽出処理材<横圧縮前処理材<熱水抽出・横圧縮複合処理であった。2)浸透速度に及ぼす減圧度の影響は,難浸透のスギとベイマツでは,浸透効果に前者で抽出物による界面のぬれと壁孔閉鎖,後者で有効通路の横圧縮による開放が大きく関係していることが示唆された。3)仮道管相互の液体移動は,ヒノキ材では移動が容易で,ベイマツやスギ材ではその移動が殆ど認められなかった。4)減圧下の液体移動には2種の異なる形状の気泡を観察した。丸形気泡は,隣接仮道管からの空気の流入,長径気泡は仮道管縦方向のキャビテーションに基づき発生することが推察された。
  • 大林 宏也, 桃井 尊央, 栃木 紀郎, 小林 純
    2007 年 53 巻 5 号 p. 262-268
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    日本における主要な針葉樹材であるスギ(Cryptomeria japonica D. Don)は早材部の密度が低いので,早材部と晩材部との硬さの差が大きい。そのため切削をはじめとする機械加工において,加工面粗さが大きくなるなど種々の加工上の欠点が出現する。このような問題点を克服するために,スギ材を冷凍することによって早材部の硬さを晩材部のそれに近づける冷凍処理についてはすでに検討した。本報告ではこれと同様の効果が期待できる処理として,供試材を加熱した後に放射方向に横圧縮処理し,その後切削する際の被削性への影響について細胞レベルで検討した。得られた結果は以下のとおりである。1)圧縮率50%の加熱圧縮処理によって,早材部における細胞壁のほとんどが変形し,硬さが晩材部のそれ(HDD 60)に近くなった。2)圧縮率50%で加熱圧縮処理されたスギ材では,切削による切屑表面の細胞の横断面はU型を呈し,良質な加工面が得られることが確認できた。その効果は,放射組織付近や年輪界付近において特に顕著に現れた。3)スギ材の切削加工における表面粗さの問題を改善する方策の一つとして,加熱圧縮処理が有用であることがわかった。
  • 森 満範, 桜井 誠, 宮内 輝久, 杉山 智昭
    2007 年 53 巻 5 号 p. 269-275
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    ナミダタケ腐朽材に対する現場処理方法を確立するために,軽微なナミダタケ(Serpula lacrymans)腐朽材における表面処理用木材保存剤の効果を調べた。ナミダタケを培養したビン内でエゾマツ(Picea jezoensis)辺材(2(T)×2(R)×4(L) cm)を2~8週間強制的に腐朽させた後,木材表面の菌体を除去して,あるいは除去せずに有機ヨウ素・アゾール化合物系の油溶性木材保存剤(SF1083)に浸せき処理した。これらの試験体をナミダタケあるいはポテトデキストロース寒天培地上に12週間設置した後に質量減少率を測定し,ナミダタケに対する防腐効力を評価した。その結果,菌体除去の有無に関わらず薬剤処理により質量減少は強く抑制された。また,2個のエゾマツ辺材(2(T)×2(R)×1(L) cm)を同じ培養ビン内でナミダタケにより2週間強制的に腐朽させ,一方の試験体にSF1083を滴下してさらに10週間設置した後の質量減少率を測定した。その結果,SF1083を滴下した試験体では質量の減少は認められず,もう一方の滴下していない試験体においても質量減少が抑えられた。このことからナミダタケにより軽度に腐朽した木材に対する薬剤処理は,処理部分および処理部周辺の薬剤未浸透部分に存在するナミダタケの腐朽力を低下させ,腐朽の進行を抑制できることがわかった。
ノート
  • 菊地 伸一, 前田 恵史
    2007 年 53 巻 5 号 p. 276-282
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    発熱性は室空間の火災拡大を左右する燃焼特性であることから,防火材料の性能評価方法がコーンカロリー計による発熱性試験に変更された。現在,不燃性を持つ薬剤処理木材の開発が精力的に進められているが,発熱抑制に適した難燃剤の種類や含量,複数の薬剤の組み合わせ方法など,不明な点も多い。そこで,主要な木材用難燃剤9種類をスギおよびヤチダモ板材に含浸し,入射熱50 kW/m2 における発熱性の変化をコーンカロリー計試験によって検討した。9種類の難燃剤の発熱抑制効果は,効果の高い順に,CH5・N3H3PO4,NH4H2PO4,(NH42HPO4>(CH5・N32 H3PO4>C2H6N4O・H3PO4>H3BO3,(NH42O・5B2O3,Na2B8O13・4H2O>(NH42SO4 であった。難燃剤の発熱抑制効果は,加熱初期の発炎燃焼を低減させる防炎と炭化層の赤熱を抑制する防じんに分けて考えることができ,リン系難燃剤は防炎効果が優れていたが,残じんは抑制されにくかった。難燃剤の中には赤熱を促進する効果を持つものがあった。
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