木材学会誌
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55 巻, 2 号
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総説
  • 大原 誠資
    2009 年 55 巻 2 号 p. 59-68
    発行日: 2009/03/25
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    樹木の樹皮には,タンニンと総称されるポリフェノール成分が多量に含まれている。樹皮は日本の製材工場から発生する主な残廃材の中で,最も利用率が低いことが報告されている。木質バイオマス資源の利活用が重要な課題となっているが,現状では樹皮の用途は限られており,その特性を活かした付加価値の高い利用法の開発が有効である。縮合型タンニンは樹皮に広く分布しており,様々な工業原料や生理機能性物質としての用途開発を目指した研究が行われている。また,タンニンの有する有用機能はタンニンの化学構造と密接に関係していることから,化学変換,酵素変換を行うことでその機能を増強させる改質が行われている。本稿では,樹皮タンニンの化学特性及び機能増強や有効利用のための化学・酵素変換についての最近の研究成果を概説するとともに,今後の樹皮タンニンの利活用の展望について述べる。
一般論文
  • 戸田 正彦, 藤原 拓哉, 野田 康信, 大橋 義德, 平井 卓郎
    2009 年 55 巻 2 号 p. 69-76
    発行日: 2009/03/25
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    厚さ30 mm・曲げ強さ区分13タイプのパーティクルボードを張り付けた床構面の面内せん断試験を実施し,強度性能を確認するとともに,数値解析によってせん断変形挙動の推定を試みた。その結果,ビス仕様のものは釘仕様よりも高い最大荷重が得られたが,逆に靭性は低下した。また幅の狭いボードを並べた配置の場合は,標準的なサイズでの配置に比べてせん断性能が低下することが明らかとなった。数値計算の結果,要素実験で得られた接合部の荷重-すべり量の関係およびボードのせん断弾性係数を用い,かつボードの配置を考慮することによって,釘仕様での推定値は終局状態まで実験値とよく一致した。これに対し,ビス仕様のものは破壊形態が一面せん断試験と面内せん断試験とで異なり,推定精度は低下した。
  • 中村 晋平, 二村 伸一, 前野 和也, 葭谷 耕三, 棚橋 光彦
    2009 年 55 巻 2 号 p. 77-84
    発行日: 2009/03/25
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    木材の3次元成形加工技術は木材をプラスチック代替資源として活用することを可能とするものとして開発が行われている技術である。これは圧縮半固定材から得た単板を高温高圧の水蒸気下で回復させながら深絞り的に成形する他に類を見ない技術であり,この技術の確立には原料となる伸縮性および柔軟性を有する半固定材の開発と,その最適な作製条件を検討することが重要である。本研究ではスギ(Cryptomeria japonica)およびヒノキ(Chamaecyparis obtusa)を用いて高圧水蒸気処理による様々な温度条件および時間条件で半固定材の作製を試みた。結果,圧縮半固定材は伸縮性および柔軟性に富んだ物性を示し,スギでは110℃で2時間予備軟化を行なった後,150℃で1時間軟化処理を行なったものが最適な物性(伸び率97.8%)を示し,ヒノキでは110℃2時間の予備軟化後,140℃で1時間軟化処理を行なうのが最適(伸び率107.4%)であった。
  • 吉澤 央隆, 山田 雅章, 滝 欽二
    2009 年 55 巻 2 号 p. 85-91
    発行日: 2009/03/25
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    水性高分子-イソシアネート接着剤(以下API)の耐熱性向上を図るため,粘土鉱物の一種であるモンモリロナイトをAPIのベースポリマーとして広く利用されているポリビニルアルコール(以下PVA)に添加し,そのフィルム物性や木材接着性能の検討を行った。モンモリロナイトをPVA水溶液に添加・撹拌した際の粘度の経時変化を測定するとともに,モンモリロナイトを添加したPVAフィルムを作製し,X線回折,動的粘弾性の測定および木材接着性能試験を行なった。その結果,モンモリロナイト添加PVA水溶液の粘度は,撹拌時間の増加に伴い増加した。また,X線回折によりモンモリロナイトの層間隔の広がりが確認され,撹拌によりPVAとの相互作用が増大したことが示唆された。一方,高温度域での貯蔵弾性率が未添加系に比べ10倍程度高い値を示した。木材接着試験においても高温度域での接着性能が大きくなり,耐熱性の向上が明らかとなった。
  • 大谷 慶人, 野口 琢郎, 市浦 英明
    2009 年 55 巻 2 号 p. 92-100
    発行日: 2009/03/25
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    九州の代表的な挿し木品種であるアヤスギは根株腐朽被害が極めて大きく,ヤブクグリ,メアサ,ヤナセスギでは比較的少ない。これらの材を比較した結果,後3者においてメタノール抽出物量が比較的多く,ノルリグナンの構成が大きく異なることが明らかとなった。実際に根株腐朽木より単離された腐朽菌を用いた抗菌性試験の結果,メタノール抽出物,特にセクイリン-Cなどのノルリグナンによる菌糸生長阻害が認められた。すなわち,ヤブクグリ,メアサ,ヤナセスギなどの根株腐朽率が低いのは,これらの3樹種において,抗菌作用を持つ,アガサレジノールおよびセクイリン-Cなどのノルリグナン類の含有量が,アヤスギより高いことが主要な原因であると強く示唆される。
ノート
  • 生化学的・心理学的指標による比較
    齋藤 ゆみ, 西巻 優, 辰己 尚隆, 小野 さや香, 木下 美絵, 笹山 哲, 齋藤 邦明
    2009 年 55 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2009/03/25
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    精神的労作後の急性の疲労感やストレスに対する木質空間およびビニル空間の短期的な緩和効果について検討した。京都市内の大学生およびT建設会社,K設計事務所に勤務する健康な成人男女20名を被験者として,心理的指標(POMS:Profile of Mood States)および唾液中の生化学的指標(唾液中のコルチゾール,CgA:クロモグラニンA,IgA:分泌型免疫抗体A)を測定した。その結果,木質空間では活気を除く,緊張・不安,抑鬱・落込み,怒り・敵意,疲労,混乱などのストレス状態を示すすべての項目で入室30分後にPOMS値の平均得点が有意に低下(p<0.01)し,ビニル空間では入室前後での有意な差は確認されなかった。生化学的指標ではCgA,コルチゾールおよびIgAの濃度測定結果からクレペリンテスト後に交感神経系の活性化を示唆する反応が見られ,各室に入室後は交感神経の緊張緩和の様子が見られたが,両空間での有意差は検出されなかった。今後は被験者数の拡大や精神的ストレス状況の検討などを行い,更に研究を推進していく必要がある。
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