天然秋田スギの突然変異の1つアオヤジロの胸高直径,樹幹の応力波伝播速度を精英樹や耐雪性スギと比較した。アオヤジロの応力波伝播速度は耐雪性スギと同様に精英樹より速く,胸高直径との間には負の相関がみられた。これらから幹のヤング率が高く雪害抵抗性に優れることと加齢に伴う材の剛性低下が示唆された。成長錐コアを用いてアオヤジロ心材外部の含水率,粗灰分および心材最外部の揮発性成分を調べ,精英樹のそれと比較した。各成分の間に有意な差はみられなかったが,アオヤジロの粗灰分がやや多い傾向にあった。揮発性成分はcubebolやδ-cadineneがアオヤジロでやや多い傾向にあった。cubebolは酒を腐らせる乳酸菌の増殖を阻害するcubenol,epicubenolやδ-cadineneに変化しうる。よって,cubebolとδ-cadineneの含量はアオヤジロ材を評価する上で有用な指標になるものと思われた。
北海道産カラマツについて,原木半径方向の採取位置と単板品質の関係を調べるとともに,原木の枝打ちの有無が単板品質に及ぼす影響について検討した。超音波伝播速度による単板のヤング係数の平均値と原木の動的ヤング係数の間には高い正の相関が認められた。ベニヤレースのスピンドル中心からの距離(中心距離)の増加に伴い単板のヤング係数が増加する傾向が認められ,この傾向は枝打ちを実施した林分の方が顕著であった。髄から15年輪を境界として未成熟単板と成熟単板を便宜的に区分すると,成熟単板のヤング係数の平均値は未成熟単板のそれよりも約6割高い値となった。中心距離10cmを超えると成熟単板が急増したことから,中心距離10cm付近で単板を区分することにより,高強度単板の選別ができる可能性が示された。また,枝打ちされた林分では,中心距離12cm以上の単板の多くが無節となり,枝打ちによる板面品質の向上効果が確認された。
岩手県紫波町における木質バイオマス地域熱供給システムのライフサイクル温室効果ガス(GHG:CO2, CH4, N2O)排出量および化石燃料代替に伴うGHG排出削減量を評価した。丸太生産過程から熱供給過程までのライフサイクルGHG排出量は70.8kg-CO2-eq/GJ-heatとなり,熱供給過程からの排出量が全体の92%を占めた。一方,被代替過程における液化石油ガス(LPG)代替によって92.4kg-CO2-eq/GJ-heatのGHG排出削減量が得られ,これを考慮した正味のGHG排出量は-21.6kg-CO2-eq/GJ-heatとなり,化石燃料代替に伴うGHG排出削減効果が期待できることが分かった。また,現状の熱利用効率29%が23%まで低下するとGHG排出削減効果は得られなくなるが,75%まで改善することができれば現状の3倍のGHG排出削減効果が得られる可能性がある。
日本国内の木材平衡含水率は15%と考えられている。これは過去の気象値や実験的データに基づいていると考えられる。気候値平衡含水率に関した文献は従来からあるが,測定点は多くなく,主に都市部であった。近年,国内における気象測定地点や経年値等の気象データは増えた。ここでは,1981~1995年の気象デ-タと平衡含水率図表に基づいて,改めて気候値平衡含水率の検証を行った。その結果,全国842測定点のデータから,気象値による木材平衡含水率の全国平均は15%,その範囲は12~19%と,従来からの報告と変わらなかった。ただし,従来の報告にある都市部の測定地点に限定して比較すると,気候値平衡含水率は13.5%と低下傾向であった。
カラマツ建築用材生産時の歩留まりを向上させることを目的として,人工乾燥によって出現するねじれ,曲がり,縦反りを考慮に入れて必要製材寸法を求める手法を開発した。また,目標含水率を10%及び20%としたカラマツ心持ち正角材で乾燥後のねじれ,曲がり,縦反りを測定し,105mm正角材を生産するために必要となる製材寸法を開発した手法を用いて算出した。どちらの含水率条件でも必要製材寸法には曲がりと縦反りよりもねじれの影響が大きく反映された。また,加工歩留まりを最大化する理論的な製材寸法は目標含水率10%供試材では123.9mm,目標含水率20%供試材では118.8mmと算出され,そのとき修正加工時に歩切れなく加工できる本数は全体の98%になると推測された。