木材学会誌
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62 巻, 6 号
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総説
  • 安部 久
    2016 年 62 巻 6 号 p. 240-249
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    木材の樹種を知ることは,木材を利用する上で必要不可欠である。木材の樹種を識別するには,顕微鏡での観察によって木材の解剖学的な特徴を調べることが一般的である。日本における木材解剖学の研究は130年の歴史があり,国産材であればほとんどの樹種が識別できるのが現状である。しかし,この方法による木材の樹種識別では多くの場合植物分類学の属レベルまでにとどまるという限界があり,それ以下の種レベルの識別にはDNA分析や化学成分分析など他の方法を併用する必要がある。また,文化財のように,非破壊で木材の樹種を調べることが求められるケースも増加してきた。本総説では,これまで行われてきた木材の樹種識別に関する研究と近年求められている木材の樹種識別技術に関する研究を紹介し,さらに木材の樹種を調べることの重要性について,違法伐採木材対策や国産材の利用促進などの近年の社会情勢の変化による時代のニーズも含めて概説する。

  • 錢谷 菜々未, 小幡谷 英一, 松尾 美幸
    2016 年 62 巻 6 号 p. 250-258
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    長期にわたる経年により,木材の音響特性や安定性が向上すると言われている。しかし最近になって,それらの変化の一部が,高湿度での吸湿履歴によって解消するような一時的な変化であることが明らかとなった。類似の一時的な現象は,木材を水分存在下で加熱した場合にも認められる。これらの一時的な変化は,木材構成分子の物理エージングに伴う一時的な細孔の閉鎖に起因すると推察される。木製の古楽器や古文化財を保存する際には,経年によって変化した物性が吸湿に伴って回復することを考慮しなければならない。また,熱処理材の実用性能を正確に評価するためには,加熱によって生じる一時的な変化を除外しなければならない。本論文では,木工芸品や木製楽器の品質に関わる木材物性の経年や熱処理に伴う可逆的および不可逆的な変化について概説する。

カテゴリーI
  • 材内の密度分布と稈の横圧縮強度
    中西 遼, 小幡谷 英一
    2016 年 62 巻 6 号 p. 259-265
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    雅楽に用いられる篳篥のリード(蘆舌)には葦(Phragmites australis)が用いられる。蘆舌には淀川流域の鵜殿地区で採れる葦が最適とされているが,その理由は定かではない。本研究では,代替産地や合理的な選別法を検討する上で不可欠な良材の条件を明らかにするために,熟練者によって選別された葦材の組織構造,密度および横圧縮強度を他の葦のそれらと比較した。同一節間内で比較すると,上部ほど肉薄で密度が高かった。この違いは外皮の内側にある柔細胞層の厚さの違いによるものであった。良材と選別された葦材は,他の葦よりも肉厚でやや密度が高かったが,その差は僅少であった。一方,良材は他の葦よりも明らかに高い横圧縮強度を示した。葦の稈から蘆舌を作る際には,稈の一端をつぶさなければならない。そのため,薄くつぶしやすい節間内上部が使われ,かつ,横圧縮に対して壊れにくい葦材が選ばれるものと推察された。

  • 松尾 美幸, 山本 浩之, 梅村 研二, 川井 秀一
    2016 年 62 巻 6 号 p. 266-274
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    木材の色は経年により変化する物性の一つであり,審美性や劣化の指標としての観点から重要である。本研究では,科学的に年代を明らかにしたケヤキ古材を用いて経年にともなう色変化を測定し,既報の熱処理にともなう色変化やヒノキ材の色変化と比較した。その結果,L値およびb値は新材より小さくなり,熱処理にともなう変化と同様であった。一方で,古材のa値は新材や熱処理材のそれよりも大きく,経年と熱処理では異なる傾向を示した。反応速度論的解析によってケヤキ材の常温での色変化を予測し,古材から測定した色変化と比較したところ,ケヤキ材の経年変化は熱処理材から予測された変化よりも速く起こっていることがわかった。これらの結果は,経年による色変化と熱処理による色変化が同じ熱酸化反応であると結論づけられたヒノキ材とは異なる結果であり,樹種による経年変化への応答が異なることがわかった。

  • 吉田 美音, 仲村 匡司, 菊地 由衣
    2016 年 62 巻 6 号 p. 275-283
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    本研究は,木質壁面の基本的なデザイン要素がヒトの生理的および心理的反応に及ぼす影響を捉えることを目的とした。節の有無,材の向き,縦継ぎの有無の異なる6種類の壁面パネル画像を大型液晶画面に等倍表示(1016mm×576mm)した。28名の男女学生にこれを自由に観察させ,その間の視線移動を追跡するとともに,後頭部に現れる眼球停留関連電位(EFRP)の同時測定を行った。6種類の壁面パネル画像の見た目の印象も評価させた。主観評価では,節のない壁面の方が節のある壁面よりも有意に「均一」で「好ましい」と評価された。EFRPにおけるラムダ反応の大きさには,節の有無よりもむしろ壁面中の材の配置が影響した。また,画像観察中の視線の総停留時間,停留回数から,節の高い誘目性が確認された。

  • 視線追跡および画像解析による評価
    加藤 茉里子, 仲村 匡司
    2016 年 62 巻 6 号 p. 284-292
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    材面,光源,観察者間の位置の変化によって生じる照りの移動は,木材に特有の光反射特性のひとつである。波状杢は照りの移動を生じやすく,その特殊な外観は様々な木材製品や工芸品の審美的価値に大きく影響する。そのため,メイプル材に現れる波状杢はヴァイオリン杢としてヴァイオリンの裏板に用いられてきた。本研究では,ヴァイオリン杢の外観と誘目性の関係を明らかにするために,照りの移動に関する画像特徴量を10台のヴァイオリンを対象に算出し,照りの移動を再現した動画を観察する観察者の心理反応量と視線の動きを測定した。その結果,1)画像解析によって算出したコントラストスペクトルは照りの移動を説明しうる,2)視線の停留点の分布はヴァイオリン杢ごとに異なるものの,観察者の視線移動は照りの移動に追随する,3)ヴァイオリン杢のコントラストが高いほど「変化に富んだ」印象を与えやすいこと,などが明らかとなった。

  • 米山 菜乃花, 仲村 匡司, 片岡 厚, 杉山 真樹
    2016 年 62 巻 6 号 p. 293-300
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    木理のコントラストの変化がその誘目性や見た目の印象に及ぼす影響を定量的に示すために,10種類の塗装によって材面のコントラストを変化させたスギ,ミズナラ,イタヤカエデの化粧合板を調製し,画像解析および視線追跡を含む観察実験に供試した。イメージング分光装置によって得られた各試料の色彩値付き画像データから,材面のコントラストに関係する画像特徴量を算出した。27名の被験者に各試料を所定の観察条件で観察させ,その間の視線の動きを測定するとともに,試料の見た目の印象を評価させた。画像解析から得られたコントラスト値によって塗装による材面のコントラストの差異を的確に表せた。また,主観的な「木理の明瞭さ」や材面の誘目性とコントラスト値との間に相関関係が認められた。

カテゴリーII
  • 信田 聡, 前田 啓, 浪岡 真太郎
    2016 年 62 巻 6 号 p. 301-310
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    日本産木材50種の視覚的好ましさを評価する目的で,一対比較法を用いて19歳~30歳までの被験者により視覚的好ましさの間隔尺度値を求めた。好ましさの間隔尺度値と各木材画像の色属性間の相関分析から,好ましさは「RGBの中のR値の変動係数」や「R値の最小値」と正の強い相関を示し,さらに「R値の変動係数」とは負の強い相関を示したことから,赤味が強く,暖色系の色で,木目がはっきりしない木材が,視覚的に好まれることが示唆された。

  • 聞き取り調査の多次元尺度構成法による解析
    末吉 修三, 森川 岳
    2016 年 62 巻 6 号 p. 311-316
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    事務所の内装写真を用いた聞き取り調査で得られたテキスト型データの計量的分析に基づいて,事務所の内装に使われた木材がもたらす視覚的影響を検討した。被験者に対して20枚の事務所内装写真を提示し,類似の印象を持つグループに分けさせた後,グループごとにその会社の印象およびそのような印象を持つ理由を尋ねた。グループに分けられた写真および聞き取った回答について,非計量的多次元尺度構成法による解析を行った。被験者には,写真に木質と非木質の内装が含まれることを説明していないにも関わらず,2次元空間に木質内装と非木質内装の写真が分かれて位置付けられ,木質内装写真は「木材」の近くに位置付けられた。その「木材」の周辺に「あたたかい」,「快適」,「静か」,「明るい」,「友好的」など良好な事務所環境あるいはその会社や社員に対する好印象につながる語が位置付けられ,事務所の内装で木材が好ましい視覚的影響をもたらすことが示唆された。

  • 鈴木 昌樹, 秋津 裕志, 宮本 康太, 塔村 真一郎
    2016 年 62 巻 6 号 p. 317-324
    発行日: 2016/11/25
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    木質材料のアセトアルデヒド放散速度の経時変化を小形チャンバー法によって測定した結果から,実大空間における気中濃度の推移を予測する手法について検討を行った。実大空間での気中濃度予測には,試料負荷率の影響を把握しなければならないため,まず,木質材料の試料負荷率とアセトアルデヒド気中濃度との関係について小形チャンバー法を用いて調べた。次に実大の試験室に内装材を設置して気中濃度の経時変化を測定した。木質材料から放散するアセトアルデヒドの気中濃度は,換気量一定の条件下では試料負荷率と比例の関係にあることが明らかになった。実大空間内の気中濃度を予測するため,物質収支式と放散速度の減衰モデルから得られた実大空間内の気中濃度の経時変化を表す数理モデルを導入した。この数理モデルと小形チャンバー法によって得たパラメータを用いた推定値は,実際の室内のアセトアルデヒド気中濃度の経時変化とおおよそ一致した。

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