木材学会誌
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63 巻, 1 号
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総説
  • 恒次 祐子, 松原 恵理, 杉山 真樹
    2017 年 63 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/01/28
    ジャーナル フリー

    木質居住環境は「人への親和性」があり,「あたたかみ」,「やすらぎ」を感じさせるとのイメージを持たれているが,近年は科学的な手法による木材の良さの解明に対するニーズが高まっている。本総説ではこれまでに日本木材学会を中心に行われてきた木質居住環境の快適性に関する研究のうち,特に人間を対象とした研究を心理的手法,パフォーマンス評価法,生理的手法といった評価手法の観点から整理した。また他分野における関連研究を概観することで,木質科学分野の居住性研究に導入できる可能性のある評価手法についても検討を加えた。今後の関連研究の方向性として(1)短期的影響について,子どもや高齢者,患者などを含めた様々な被験者群でのデータを蓄積すること,(2)長期的影響を評価するための研究手法を確立することなどが挙げられる。

カテゴリーI
  • 動的粘弾性と細胞壁構成成分の関係
    桐生 智明, 松田 尚子, 神代 圭輔, 古田 裕三
    2017 年 63 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/01/28
    ジャーナル フリー

    成長に伴うモウソウチクの力学的性質の上昇に関与する細胞壁構成成分の変化について検討するために,発筍から約40日~9年が経過した竹稈から採取した飽水状態の竹材の動的粘弾性的性質とその温度依存性を測定するとともに,セルロース,ヘミセルロース,クラーソンリグニン,酸可溶性リグニン,温水抽出成分の定量分析を行い,それらの結果を比較検討した。その結果,モウソウチク材の動的弾性率や損失弾性率の増加には,発筍から約80日が経過するまでの期間では,リグニン量の増加とリグニンの重合度の増加が関係することが明らかとなった。また,発筍から約80日が経過した以降の期間においても,成分比が変化しないにも関わらず,損失弾性率や損失正接といった動的粘弾性の温度依存性が変化することから,リグニンの質の変化が力学的性質の上昇に関与すると考えられた。

カテゴリーII
  • 杉山 真樹, 片岡 厚, 八藤後 忠夫, 松永 正弘, 松井 宏昭
    2017 年 63 巻 1 号 p. 21-33
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/01/28
    ジャーナル フリー

    福祉用途への木材利用の適性を評価するために,携帯型の生活支援用具として3種類の異なる材料(金属,プラスチック,木材)で外装した携帯電話を想定し,各製品に対して自閉症のある子を持つ母親が抱く印象や嗜好性について,セマンティック・ディファレンシャル(SD)法により評価した。各製品に対して母親が抱く印象は,「耐久性・メンテナンス性」,「素材のイメージ」,「質感」,「表面性」の4因子からなることを明らかにした。また,材料の表面性は製品の好意度と購買意図のいずれにも正の影響を与えていること,素材のイメージは好意度には影響を与えるが購買意図につながらないこと,製品の汚れにくさは購買意図に対して特徴的に寄与しており,好意度には影響を与えないことを明らかにした。木材特有の表面性は,好意度と購買意図双方に正の影響を与えており,素材のイメージは好意度とは関係があるが,購買意図にはつながらないことが確認された。

  • せん断強度および木部破断率
    柳川 靖夫, 原田 充祥
    2017 年 63 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/01/28
    ジャーナル フリー

    3種類のレゾルシノール樹脂接着剤(RF),3種類の水性高分子-イソシアネート系木材接着剤(API),および変性酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤(VAE)の,計7種類の接着剤を使用して5プライのスギ集成材を作製した後木材保存剤で処理し,接着層を水平として10年間の屋外暴露試験に供した。暴露1,3,5および10年で試験片を採取してブロックせん断試験を行った。暴露10年後の全試験片でせん断強度を比較すると,接着剤間で有意な差が認められた。また,個々の接着剤を対にしてせん断強度を比較した結果,有意差が認められた対比較はすべてVAEを含んでいた。せん断強度のばらつきは暴露10年が最も大きく,7接着剤中ではVAEのばらつきが最も大きかった。せん断強度の分布の適合性を正規,対数正規,2Pワイブル,3Pワイブルについて調べたところ,VAEのみ暴露1年以降はいずれの分布形にも適合しなかった。木部破断率平均値は暴露期間に伴い漸減したものの,各接着剤とも暴露10年後で80%以上であり,接着剤間の差は明確ではなかった。

  • 野田 龍, 加用 千裕, 山内 仁人, 柴田 直明
    2017 年 63 巻 1 号 p. 41-53
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/01/28
    ジャーナル フリー

    日本における木製遮音壁の先進自治体である長野県において,同県で開発された2種類の木製遮音壁(カラマツ製,スギ製)とコンクリート製遮音壁を対象として,ライフサイクルにおける温室効果ガス(GHG)排出量を評価し,コンクリート製遮音壁を木製遮音壁に代替することによるGHG排出削減効果を明らかにした。その結果,評価期間30年における原材料調達から設置作業までのGHG排出量合計では,コンクリート製に比べ,スギ製は同等,カラマツ製はGHG排出量が少なくなることが明らかとなった。供用期間終了後の廃木材の燃料利用による重油代替および廃鉄,廃コンクリートによる材料代替を行えば,GHG排出削減に繋がり,また,コンクリート製を木製に代替することで遮音壁延長1mあたり,カラマツ製で91kg-CO2-eq,スギ製では62kg-CO2-eqのGHG排出削減効果が得られることが分かった。

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