年輪年代学的手法を用いて日本各地に生育するブナの肥大成長を制限する気候要素を明らかにした。13地点に生育するブナの年輪幅の地点を代表する時系列である年輪幅残差クロノロジー(以下,クロノロジー)を構築した。クロノロジーが共通して存在する期間について生育地間の単相関分析および主成分分析を行い,生育地間の変動の類似性について検討した。クロノロジーと気候要素(月平均気温,月降水量,日照時間)との間で単回帰分析および応答関数分析を行った。東北から北海道にかけての生育地間の一部の組み合わせでは共通する気候応答が認められたが,多くの生育地間に共通する気候応答ではなかった。その他の地域では高知,愛媛の組み合わせを除き,共通した気候応答は認められなかった。移動相関により時間経過に伴う年輪幅と気候要素との相関関係の変化を解析したところ,多くの生育地では気候要素との有意な相関は時間経過に伴って変化した。
ほぞ接着接合は椅子などの家具接合に用いられるが,接着時に圧締できないため,十分な引き抜き耐力を発揮できない。そのため,込み栓などによる補強が必要になる。本研究ではグリーンウッドワークで用いられる収縮接合を丸ほぞ接着接合法の補強に使うことを検討した。試験体は湿潤状態のほぞ穴部材と気乾状態のほぞを酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤で接着して作製した。引き抜き試験を行った結果,収縮接合を併用した接着丸ほぞ接合はエポキシ樹脂接着剤で接着した丸ほぞ接合に匹敵する大きな引き抜き耐力を示すことがわかった。含水率の季節変化を考慮して,4回までの乾湿繰り返しを付与した後に行った引き抜き試験でも,明らかな強度低下は認められなかった。本接合法は,接着が切れた後も収縮接合に由来する耐力を,ある程度,維持することができた。
木材の繊維方向荷重時の割裂破壊のメカニズムは明らかになっておらず,その耐力を評価することは難しい。本研究では,鋼板添え板ドリフトピン接合部における割裂破壊について,ドリフトピンが母材に与える支圧応力度の最大値が支圧強度に達した時に割裂を起こすと考え,耐力推定手法の提案を目指した。この考え方を基に,計算式及び解析によって割裂耐力を推定し,前報で行った実験との比較をした。ドリフトピン端部を自由端とした場合の計算値は材厚が60mm以下の試験体で,固定端とした場合の計算値は材厚90mm以上の試験体で実験値と精度よく一致した。本報の提案式では材厚が厚くなるにつれ,端部自由・固定の計算値の差が大きくなる。すなわち,本接合部において回転拘束の影響が非常に大きいことがわかる。解析値では回転拘束条件を実験から適切に設定したため,いずれの試験体でも割裂耐力を精度よく推定することができた。
MDF製造における最適な蒸煮条件を見出すことを目的として,蒸煮により木材に生じる変化を評価した。初期含水率が10,30,60,90%の試料を圧力容器の中で圧力0.7MPaで所定時間(1~18分間)蒸煮した。用いた樹種はアカシアマンギウムとスギであった。蒸煮した試料について含水率,細胞壁構成成分の変化を比較評価した。初期含水率が10,30,60%の場合,蒸煮中に含水率が増加した。試験体の厚さは単位面積あたりの吸水量に影響を及ぼさなかったため,細胞壁,細胞壁孔,内腔を通じ濃度差に基づく水の拡散が一様に生じたものと思われる。一方で,初期含水率が90%の試料については,蒸煮開始初期に含水率は減少するものの,その後初期含水率に戻った。アカシアの成分の変化については,試料の初期含水率に依らず,ホロセルロース量が低下し,12分の蒸煮では約10%低下した。これはヘミセルロースが分解したためと推察された。
本研究は低温のNaOH-チオ尿素-尿素水溶液で綿繊維を処理し,綿繊維パルプから湿潤強度の高い紙を調製し,処理におけるアルカリ濃度,浸漬時間,低温処理時間,および洗浄時間が紙の湿潤強度に与える影響を分析した。赤外分光分析,X線回折,熱重量分析により物質の変化を調べ,走査型電子顕微鏡を用い,処理前後の紙の微細構造の変化を調べた。その結果,繊維濃度6%,浸漬時間2s,低温処理温度-6℃,低温処理時間10min,洗浄時間15minの条件で調製した手すき紙の湿潤強度が最もよく,処理前の手すき紙と比較すると乾燥引張強度が84%,乾燥破裂強度が368%,湿潤引張強度が380%,湿潤破裂強度が1150%向上した。同時に,処理前後で手すき紙の表面形態の変化は著しいが,微細構造の変化はあまりないことがわかった。