福祉社会学研究
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11 巻
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特集1  比較福祉研究の新展開
  • 上村 泰裕
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 7-10
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
  • 6カ国・地域の調査結果から
    末廣 昭
    2014 年 11 巻 p. 11-28
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
    東アジア福祉システム論は,欧米型福祉システムとの大きな違いとして, 福祉国家の後進性を指摘し,逆に,家族と企業が福祉サービスの中で重要 かっ補完的な役割を果たしていると主張してきた.ただし,介護などに占 める家族の役割については,本格的な国際比較が開始されたものの,企業 福祉そのものについては,実証的な研究は皆無に近い.そこで,私たち共 同研究チームは,中国,韓国,台湾,タイ,シンガポール,インドネシア の6カ国・地域を取り上げ, 2006年に企業福祉に関する統一的な質問票 調査を実施し,計804社から回答を得た実施した調査項目は,経営側の 企業福祉観,企業内福利厚生の有無(社宅,食費補助,送迎バスなど24 項目),労働費の構成(法定福利費,法定外福利費,退職金の比率)など である. 企業調査の結果, 6カ国・地域の企業福祉に共通する特徴を見出すこと はできなかった「企業福祉を重視する」という見解は共通していたものの, 重視する理由や成果主義的な賃金とのトレードオフに関する意見は,国に よってばらつきが見られたからである.また,労働費の構成は,①日本・ 韓国・台湾,②シンガポール・マレーシア,③タイ・インドネシア,④中 国の4つのグループに分かれた.こうした労働費の構成の違いは,各国の 経路依存性, ILOなど国際機関の役割,企業の戦略の違いによるもので, 東アジア福祉システム論が主張する儒教主義や経営家族主義といった地域 固有の特徴は確認できないというのが,本稿の結論である.
  • 3つのチャレンジ
    落合 恵美子
    2014 年 11 巻 p. 29-45
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    アジア社会の比較研究には、欧米圏と異なる社会的背景をもつことから

    生じる「問題設定におけるチャレンジ」、対象に適合した理論化を行うた

    めの「理論枠組におけるチャレンジ」、比較可能なデータが未整備であるこ

    とによる「データに関するチャレンジ」という、少なくとも3つのチャレン

    ジが随伴すると考えられる。アジアにおけるケアレジームの比較研究では、

    まずケアに関する問題設定は、高齢化や女性労働力率の上昇よりも、まず、

    国力の基礎としての人口の量と質への関心と強く結びついている。また比

    較研究の理論的枠組みとしては、国家の実施する政策に焦点を絞るのでは

    なく、家族、市場、コミュニティなどのはたらきも視野に入れるケアダイ

    アモンド図式が適している。また、比較可能なデータが存在しないことも

    大きな問題であり、政府統計などから関連の統計を集めることも容易では

    ない。ケアにかける時間で測定するのがもっとも直接的なので、生活時間

    調査を用いた分析を試みるべきである。さらにもうひとつ、ケアレジーム

    の変容に関する理論枠組として、「家族主義」と「脱家族化」を対比するばか

    りでなく、「福祉国家によるか市場を通じてか」という「脱家族化」の2つの

    方向性に着目して、「国家化」と「市場化」という2つの軸を直交させてでき

    る4象限を立ててみることがアジアにおける比較研究では重要であろう。

    その枠組で「社会主義」から福祉国家への移行も位置づけることができる。

  • 仁平 典宏
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 46-59
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    本論文の主要な目的は,福祉国家と市民社会(非営利セクター)との相

    互排除仮説を検証することである.相互排除仮説とは,社会保障の拡充と,

    人々の自発的なアソシエーションへの参加とが負の相関関係にあると想定

    する議論である.この仮説を検証するために,本稿では, OECDの社会保

    障に関するデータと世界価値観調査のデータを用いて国家間比較を行い,

    福祉国家と市民社会との間にどのような関係があるのか明らかにした.

    主な知見は次の通りである.第一に,社会保障支出の大きさと参加の活

    発度の間に線形の関係はなく,レジームごとに異なるパターンが見られた.

    これは社会保障の拡充が活動的な市民社会を抑圧するとは言えず,つまり

    相互排除仮説は支持されないことを示唆する.第二に,福祉国家も市民社

    会(非営利セクター)も一枚岩ではなく,それぞれ様々な機能や側面を持

    つが,諸機能間の関係には正及び負の相関や無相関など多様な関係があり,

    両者の関係を一義的に同定することはできない第三に,経時的分析の観

    点からは, 1995年から2005年にかけて,社会保障の伸びと市民社会への

    参加の伸びとの間に負の相関が見いだされた.これは相互排除的な仮説が

    全く棄却されるわけではなく,ネオリベラル化という文脈の中で部分的に

    指示されうることを示唆している.

特集2 福祉社会学のアジェンダを問う
  • 杉岡 直人, 高野 和良
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 63-67
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
  • その回顧と展望
    三重野 卓
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 68-80
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
    本稿では,まず,福祉社会学会の創立の経緯を振り返り,さらに福祉社 会学の性格について議論する.そして福祉社会学の歴史を福祉社会学会の 創立以前に遡り,さらに現在の学会活動について言及する. 実際,学会員 の著作は,多様な方向に広がっているが(第三セクター,家族領域,福祉国家, 格差など),学会誌の所収論文は,ケア論,政策研究に偏っている. 本稿の大きな目的は,学会創立10周年記念事業として出版された『福 祉社会学ハンドブック』について検討を加えることにある.同書は,三部 構成となっている.第I部では,福祉社会学の枠組みを示している.具体 的には,その原理,方法を明らかにすることになる.第Ⅱ部では,福祉社 会学の諸領域について,ミクロ,マクロ,及びライフコース,ライフステー ジ,さらに差別,階層などの視点から検討を加える.第Ⅲ部では,政策論, 福祉実践に焦点を合わせる. 最後に,筆者が考える五つのアジェンダを示し,今後の方向性を指摘す る.第一としては,福祉社会学における「生活の質」へのアプローチの必 要性があり,第二には,社会構想のあり方への着目がある,第三として, 政策問題への取り組み,価値判断の意義を挙げることができ,第四に,メ タ政策基準として,格差是正,及び関係性の側面への注目が不可欠になる. そして,第五として,社会システム論の福祉社会学への適用に関する問題 設定を行うことになる.
  • 関連分野の動向も踏まえて
    平野 寛弥
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 81-94
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,福祉社会学内外の動向を踏まえて,福祉社会学研究の今

    後の課題を提起することである.まず学会内の研究動向を踏まえた課題と

    して,理論研究の充実の必要性が指摘できる既存の理論が前提していた

    諸条件の変容や,社会政策や福祉国家を正当化するロジックの不在を受け

    て,理論研究の充実は急務となっている他方で,関連分野の動向を踏ま

    えた課題としては,政策全般において功利主義的傾向が強まるなか,人々

    の福祉(well-being) と自由の関係の再検討が要請されている点が挙げら

    れる.自由な選択を装いつつも特定の生の選択を促進しようとするリバタ

    リアン・パターナリズム(以下, LP) は,自律的な生の追求を重視して

    きた近年の支配的な見解,すなわち自らの福祉の実現における自由の尊重

    に抵触するが,実際には人々はむしろLPを進んで受け入れている.これ

    が示しているのは,人々は自由な選択を必ずしも望んでおらず, 自由を何

    物にも代えがたいものとしてみなしているわけではないという事実であ

    る.かねてより社会政策において,当人の生の自由とともにその帰結が重

    視されてきた点もあわせて考慮すれば,当人に望ましい帰結をもたらす選

    択肢を提示しつつ,それを当人自らが選び取るLPは,当人の選択の自由

    と望ましい帰結のバランスを取ろうとする新たな試みである.その意味で

    は,個人の福祉の実現における自由を重視する従来の見解に再考を余儀な

    くさせるモーメントを含んでいる.

  • 2003~2012年を振り返る
    田渕 六郎
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 95-104
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    この論文では過去10年間の『福祉社会学研究』に掲載された自由論文

    を中心にしてその動向をレビューし、そこから見いだされる福祉社会学の

    研究動向の特徴について考察した.レビューの方法として,各論文が依拠

    する方法(アプローチ)および分野(テーマ)に着目して論文を分類し,

    その特徴を検討した.自由論文について検討を加えた結果,質的研究にも

    とづく実証研究が大多数を占めており量的研究は少数であること,ケアや

    介護をテーマとする論文が多いことが明らかになった.隣接分野である家

    族社会学の学会誌と比較したとき,質的研究の多さとケアなどのテーマに

    研究が集中していることは『福祉社会学研究』の特徴であることが指摘で

    きる.こうした結果がなぜ、生じたのかにかんする考察を提示するとともに,

    議論として,より多様な研究法やテーマにかんする研究が増加するために

    学会としてどのような取り組みが求められるかについて若干の提案を行っ

    た.

自由論文
  • ケアのアクターとしての位置の獲得プロセスに着目して
    堀 聡子
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 107-127
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
    本稿では,横浜市港北区にある「子育てひろば」 ( 以下「ひろば」)を 対象に,そこで活動する男子学生ボランティアが, どのように「ひろば」 に参与し,親や子どもと関わりながら,ケアのアクターとしての位置を獲 得しているかについて「ノンプログラム」という「ひろば」の仕組みに 着目しながら分析を行った. 彼らが最初に「ひろば」に入る際には「ノンプログラム」であるがゆえに, 自分が何をすべきかを自分で見つけていかなければならないことに戸惑い を感じていた.そのなかで彼らは,親と子の「隙間」を見つけ出し,子ども たちにアプローチすることによって,少しずつ親子との距離を縮めていく. また彼らは,「ノンプログラム」の「ひろば」において,ジェンダーを 資源として活用しながら,自分たちの位置を獲得していることが明らかと なった.彼らは時には,母親たちがあまりやらないような「激しい遊び」 を積極的に行うことで彼女たちとの「差異化」を図り,時には,母親たち が行っているような世話的なケアも引き受け,「同化」するような実践を 行っていた.場面場面で「差異化」と「同化」を柔軟に使い分けることで, 自分たちのケアのアクターとしての位置を獲得していた. こうした実践を通して,男子学生ボランティアたちは,子どもや母親た ちと親密な関係を築いており,その親密さは「親みたい」という言葉で語 られることがあった.親以外の様々なアクターが子どものケアに関わり, 親密な関係を構築していく場として「ひろば」があることは,家族に閉じ られた子どものケアを社会化してくという文脈においても重要な意義をも つ.
  • AおよびB地区における事例の比較から
    萩沢 友一
    原稿種別: 研究論文
    2014 年 11 巻 p. 128-151
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,地域住民の計画能力の形成要因と方法について, C市 のA地区とB地区における事例を比較分析することにより明らかにする ことにある. C市では,地区社会福祉協議会が中心となり, 2000年度より小地域福 祉活動計画に取り組んでいる.計画能力の形成要因を抽出するため,計画 能力が高いと恩われるA地区と計画能力が比較的低いと思われるB地区 とを比較分析した. その結果,①各地域組織が互いに, 日常的なコミュニケーションをとる 豊富な機会や仕組み,②地区社会福祉協議会と,自治会をはじめとする各 地域組織とが日常的にコミュニケーションをとる豊富な機会や仕組み,③ 地区社会福祉協議会が意図的に自治会をはじめとする各地域組織と協議, 協働しようとする意欲と実践,④地区社会福祉協議会の拠点事務所の存在, ⑤地区社会福祉協議会構成員一人ひとりの主体性を引き出す仕組み,⑥地 区社会福祉協議会構成員一人ひとりが活動の負担を分かち合う仕組み,⑦ 地区社会福祉協議会長のリーダーシップ,⑧地区社会福祉協議会の存在意 義を高める仕組み,が計画能力の形成要因として抽出され,地区社会福祉 協議会は,独創的な方法によりそれら諸要因を成立させていることが明ら かとなった. 今後, このような事例研究を数多く蓄積することによって,住民の計 画能力の形成を促進する地域福祉の方法論を明らかにすることが求められる.
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