福祉社会学研究
Online ISSN : 2186-6562
Print ISSN : 1349-3337
17 巻
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┃特集論文┃「多様な親子関係」への支援を再考する
  • 米澤 旦
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 7-11
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー
  • 1940 年代後半~2000 年代までの日本の施設養護論の系譜を中心に
    土屋 敦
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 13-29
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー
    本稿では,戦後日本の児童福祉法下における1940 年代後半から2000 年代までの社会的養護,中でも施設養護の議論における「愛着障害」概念興隆/盛衰の軌跡を, 「子どもの発達」をめぐる歴史社会学の視座から跡付ける.同時期は,社会的養護が戦後直後の戦災孤児の収容の場であった戦後直後期から, 児童福祉における家族政策の本格的開始時期である高度経済成長期,「子捨て,子殺し」などが社会問題化し社会的養護のあり方の変革が施設養護の場から 提起された1970 年代~80 年代をはさむかたちで,1990 年代以降の児童虐待時代に連なる時期に該当する.
     「愛着障害」概念は,太古の昔からある脱歴史的な概念ではなく,近代的子ども観や近代家族規範の形成や流布などとの交錯関係の中で歴史的に特定の時 期に形成された政治的な概念である.また同概念の盛衰過程には,その時代の社会的養護の場における施設観や家族観が色濃く刻印されている.本稿では, 戦後日本の「愛着障害」をめぐる議論には,戦後直後と1990 年代以降の現在という,議論が特に活発化した2 つの時期があることを指摘するとともに, それぞれの時代の社会的養護の場に編み込まれた「子どもの発達」問題の諸相を跡付ける.
  • 子どもの利益をめぐって
    三輪 清子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 31-50
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー
    社会的養護を受ける子どもたちの措置先の一つである里親家庭は,子どもたちの一時的な養育を行う.里親家庭に委託された子どもは,実家庭への復帰,あるいはその見込みがない場合は,18 歳での自立を目指すことになる.里親 家庭の養育期間は,子どもの実親の状況と児童相談所の決定に依る.児童相談所の決定によって,里親家庭から施設あるいは実親の家庭に復帰することを措置変更というが,本稿では,インタビュー調査によって得られた,ある措置変 更事例を検討する.
     対象にするのは,里親子関係が良好である中で,実親との交流のために,突然,子どもが児童養護施設に措置変更された事例である.本稿の目的は,この同一の措置変更事例をめぐる,児童相談所職員,里親支援機関職員,養育里親の三者の視点を捉えることにある.そのうえで,児童相談所から措置以外の里親業務全般を受託している民間里親支援機関の介入が里親に与える影響を考察する.併せて,措置変更の際に生じた児童相談所と里親の立場の違いに着目する.
  • 野辺 陽子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 51-66
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー
     本稿では,筆者が特別養子縁組の子ども当事者9 名へのインタビュー調査をしながら感じたことを起点に,「多様な親子」に対する支援を考える際の論点を提示するものである.
     まず,近代家族との関係で「多様な親子」の定義をしたのち,「多様な親子」についてどのような支援が必要だと考えられているのか, また,そもそも制度がどのように構築されているのかを確認する.次に,特別養子制度において議論されている支援について確認し, 本稿では特別養子制度の当事者の支援の中でも子ども当事者の支援に議論を絞り,特に子どもの「アイデンティティ」に関する支援について取り上げる. 次に,筆者が当事者へのインタビュー調査を通じて,現在の支援に対して感じた違和感や疑問について,ナラティヴ・アプローチを用いた社会学的研究の知見を参照しながら, 言語化していく.具体的には,①「回復の脚本」を書くのは誰か?,②支援の前提図式を問い直す, ③支援におけるドミナント・ストーリーとオルタナティヴ・ストーリーの循環・併存・錯綜,④多様な当事者に対する多様な支援という論点を議論する. 最後に,福祉社会学が今後取り組むべき課題として,「多様な親子」の支援とナラティヴ・アプローチの知見を架橋し, 多様な当事者の存在を視野に入れた支援の経験的研究と理論的研究を深めていくことを指摘する.
  • 子どもにとって「親」とは誰か
    野沢 慎司
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 67-83
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー
    ステップファミリーは独自の構造をもつ家族であるにもかかわらず,「通念的家族」(初婚核家族)を擬装せざるをえないほどの社会的圧力に曝されてきた. 誰が「親」かの規定に関わる社会制度(離婚後の単独親権,継親子養子縁組,戸籍などに関する法律)や通念的家族観が, 大人たちの行動を水路づけ,子どもたちの福祉に影響を及ぼす. しかし,この点に研究者の関心が十分向けられてきたとは言えない. そのような多数派/従来型のステップファミリー(「スクラップ&ビルド型/代替モデル」)では, ①親子関係の前提として婚姻関係の存在が優先されること,②離婚後に両親の一方の存在と価値が無視(軽視)されること, ③継親がその親を代替すること,④親権親と継親が対等に共同して子どもの養育にあたること, ⑤ステップファミリーは共通の利益を有するメンバーで構成される世帯集団とみなされること, などが自明視されてきた.新たに登場した「連鎖・拡張するネットワーク型/継続モデル」の理念と対比させて, これらの前提を批判的に検討する.そして,子どもの福祉を重視した社会制度に向けての課題, およびステップファミリーの新しい支援の方向性を提示したい. ステップファミリーの子どもたちの福祉を向上させる社会的条件を探るさらなる研究が求められている.
┃特別寄稿┃
  • ガラスキウィクズ ジョセフ
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 87-107
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

    社会学領域の組織理論の特徴として,以下の4 点を示す.第一に,社会学領

    域の組織理論は比較的新しく,学際的である.第二に,たとえばマルクス理論

    など,社会学領域の多くの理論が労働者への関心にもとづいているが,組織理

    論は組織への関心から出発している.組織理論の源流は,ウエーバーの官僚制

    に関する研究に遡る.ウエーバーは, 組織のフォームは多様であり,どのフォ

    ームが有効であるかは,組織を取りまく諸条件によって異なることを示した.

    第三に,組織理論では,そういった立場にある人々の判断は必ずしも論理的で

    はなく,自分たちの利益を守るための判断に偏りがちであり,日常の活動で対

    応をせまられる課題からは目を背ける傾向があると想定する.第四に,組織の

    戦略的対応について,environment やinstitutional context との関わりを重視

    する.とりわけエコロジー・セオリーと新制度学派の諸理論は,組織理論の体

    系化に多大の貢献をなしたが,それぞれのパースペクティブは大きく異なって

    いる.本稿の後半では,組織理論の新しい展開として,エコロジー・セオリー

    から派生した種別分類論と,新制度学派内で展開されているinhabited

    institutionalismを紹介する.これらの動向は,組織理論が未だに発展途上にあり,

    新しい視点を開拓し続けていることを示す.

┃自由論文┃
  • 天理教里親へのインタビュー調査をもとに
    桑畑 洋一郎
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 111-133
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー
     本研究は,里親として児童を養育している天理教信者である天理教里親に注目し, 天理教里親が,自身の里親養育実践に対して,天理教信仰との関連でどのような意味を付与しているのか, インタビュー調査をもとに考察することを目的とする.このことは, 里親の一定割合を占める天理教里親に関する研究がまだほとんどない状況において意義深いものとなる. またそこから,宗教や信仰と福祉実践との関係の研究に知見を提供することも可能となり, その点においても意義深い.
     天理教里親の語りへの分析の結果,以下のことが明らかとなった. 第1 に天理教里親は,信仰に基づいて人助けを実践してきたことを基盤とし, その延長線上で里親養育を開始していること,第2 に里親の立場性においては, 他の里親と異なり〈時間的非限定性〉と〈関係的非限定性〉があること, 第3 にそうした天理教里親特有の〈時間的非限定性〉〈関係的非限定性〉を生じさせているのには, 他の里親とは異なる天理教里親特有の,里親養育の〈宗教的文脈〉が要因となっていることが明らかとなった.
     こうした,里親を意味付ける〈宗教的文脈〉の枠組みは,今後の里親研究において/福祉研究において重要となるだろう.
  • 多摩ニュータウンにおける事例から
    松岡 由佳
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 135-157
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

    現在,地域での精神障がい者の社会的包摂が課題となっている.本稿では,多摩ニュータウンにおける精神障がい者の就労支援に注目し,地域の特徴が就労支援の展開とどのように関連しているのか,就労の場は,その利用者にとってどのような意味を持つのかを考察した.精神障がい者支援に取り組む団体の活動の参与観察,利用者へのアンケート調査,利用者やスタッフなどへのインタビュー調査を通じて,以下のことが明らかとなった.

    2000 年頃から始まった就労の場づくりは,ニュータウンの特徴を活かしながら展開していた.就労の場が広がることで,活動の選択肢が増え,利用者はニュータウンのさまざまな場所で活動するようになった.一例として取り上げた団地商店街の就労支援事業所は,近隣の住民同士が交流する場となっているだけでなく,住民と利用者の間の交流ももたらしていた.さらに,販売活動やサークル活動を通じて,利用者はニュータウンの街中で活動する機会を得ていた.

     このような活動の拠点は,一般就労に向けた訓練の場であり,また障がいに対する理解が得られ,仲間と交流できる居場所となっている.それは,利用者にとって,能力主義的な価値観に適応するとともに,そうした価値観から逃れられる場所でもある.こうした居場所は,利用者の社会的な承認の可能性や,利用者とスタッフ,ニュータウンの住民との間のつながりを生んでおり,利用者と地域とを結ぶ役割を担っている.

  • 受血者不在の場合の献血動機と消極的献血層の動機変化
    吉武 由彩
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 159-180
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

    献血により提供された血液は,検査・加工されて各種血液製剤になり,医療機関において患者の治療に用いられる.このとき,血液製剤を使用する患者は「受血者」と呼ばれる.先行研究では,家族や友人など周囲に受血者がいることが,献血を促すという指摘がなされることが多い.他方で,家族や友人に受血者がいない場合でも,献血を重ねる人々がいるが,このような人々に着目した研究はほとんど見られない.そこで,本研究では,家族や友人に受血者がいない人々(「受血者不在」の場合)を対象に,献血動機の分析を行うことを目的とする.

     聞き取り調査の結果,初回献血動機と献血継続動機において共通して,献血によって「役に立つ」,家族や友人等における献血者や医療関係者の存在,いつか自身や家族が輸血を受ける時のために,といった動機が語られた.献血継続動機としては,健康管理も語られた.また,初回献血動機として「なんとなく」や「興味本位」と語る場合が見られたが(消極的献血層),これらの人々は,献血継続動機としては,「役に立つ」や健康管理へと変化していた.献血を重ねる人々を増やすには,人々が「なんとなく」であっても,献血へのきっかけを持てるようにすることが重要と考えられる.加えて,今回の対象者の初回献血時の年齢は,その多くが24 歳以下であったことから,24 歳以下の人々をターゲットとした献血推進も重要と考えられる.

  • 井上 智史
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 181-202
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本におけるゲイ男性やMSM を対象とするエイズ対策の展開を整理し,彼らに対するエイズ予防がいかなるものとして展開されてきたのかを明らかにする.とりわけ,疫学者を中心とする研究者とゲイ当事者を中心に組織されたゲイNGO との協働による予防体制に注目し,その展開について福岡における活動の事例をふまえ明らかにする.

    疫学者らによるエイズ予防は,当初,接近困難なハイリスク層に近づく手段としてゲイ男性らの当事者性を必要とし,その必要に応えるかたちでゲイNGO との協働体制が成立し,展開していった(消極的協働).しかし,協働体制のもとでのゲイNGO の活動は,疫学者によって期待されるものとは異なった当事者性の獲得の過程をともない,そこでは,疫学者とゲイNGO との双方の思惑が交錯しながら,活動が展開されていた(積極的協働).

     福岡において組織されたゲイNGO「LAF」は,協働体制による活動のもとで当事者性を獲得することによって,疫学者が推進しようとするエイズ対策との間に対立を経験し,協働体制から独立し活動を行うこととなった.このことは,疫学者によるエイズ対策が必要とした当事者性の意図せざる結果として,協働体制から独立して活動を行うゲイNGO が誕生したことを意味する.

  • 不正受給認識に着目したマルチレベル構造方程式モデリング
    伊藤 理史, 永吉 希久子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 203-222
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,なぜ生活保護厳格化が支持されるのかを,不正受給認識に着目した上で明らかにすることである.日本では,生活保護制度が「セイフティネット」として十分に機能していないにもかかわらず,生活保護厳格化への支持が高い.その理由として先行研究では,制度利用者との社会的・地理的近接性やメディア利用の効果が指摘されているが,どのようなメカニズムにより生活保護厳格化が支持されているのか明らかではない.そこで本稿では,制度利用者との社会的・地理的近接性およびメディア利用が不正受給認識に影響を与え,その認識が生活保護厳格化への支持につながるというメカニズムを想定し,2014 年に実施された全国対象・無作為抽出の社会調査である「国際化と政治に関する市民意識調査」を用いて,その分析枠組み(理論モデル)の有効性を明らかにする.ベイズ推定法によるマルチレベル構造方程式モデリングの結果,次の3 点が明らかになった.⑴近接性について,社会的近接性(本人・親族・友人の生活保護制度利用)は不正受給認識を低めるのに対して,地理的近接性(市区町村別の生活保護受給率)は不正受給認識を高める.⑵メディア利用について,新聞利用は不正受給認識を低めるのに対して,テレビ利用やインターネット利用は不正受給認識に影響しない.⑶不正受給認識は,自己利益を統制した上で生活保護厳格化への支持を高める.以上より,本稿で提示した理論モデルの有効性が示された.

  • 富山型デイサービス,デイケアハウスにぎやかの事例研究
    三枝 七都子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 223-245
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

     国主導のもと,「縦割り」の制度や「支え手」「受け手」という関係を超え,住民同士で地域をともに創っていくという地域共生社会が目指されている.その実践例として,富山県を中心に数を増やす富山型デイサービスーー年齢や障害属性を区別することなく日中の生活を支援している民間の通所事業所ーーが注目されている.しかし実際は,「支え手」「受け手」が協働することは容易いことではない.にもかかわらず,そうした関わりを築くうえでの葛藤についてはこれまで十分に語られてこなかった.

     そこで,本稿は富山型デイサービスを名乗る「デイケアハウスにぎやか」(以下,にぎやか)を事例に,職員と利用者の喧嘩も含む〈ともに生きる〉という場のありように着目した.にぎやかでは,既存の福祉サービスから排除されてしまうような人たちを受け止めるため,長い時間をかけながら集まる人々と関係を模索し,時には喧嘩もやむを得ないとするような――〈ともに生きる〉――という場を築いていた.こうしたにぎやかの営みから,本稿は,地域共生社会の具現化を目指すうえでは,協働を目指すのみではなく,喧嘩しても関係が持続することを可能とするような場のあり方こそ目を向けるべきであると主張した.

  • ISSP のデータを用いた構造方程式モデリング
    池田 裕
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 17 巻 p. 247-266
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2021/06/23
    ジャーナル フリー

    福祉国家に対する態度は,一次元的に測定されることが多い.一次元性の仮定は,特定の福祉国家プログラムの支持者が,他のすべての福祉国家プログラムをより強く支持すると予測する.しかし,いくつかの研究は,福祉国家に対する態度が多次元的であることを示唆している.すなわち,特定の福祉国家プログラムをめぐる対立は,他の福祉国家プログラムをめぐる対立と質的に異なるかもしれない.本稿は,国際社会調査プログラム(ISSP)のデータを用いて,日本の福祉国家に対する態度の構造と規定要因を検討する.福祉国家に対する態度の構造を正確に表現し,福祉国家をめぐる対立にプログラム間の差異があるかどうかを明らかにするのが目的である.

     カテゴリカル確証的因子分析によれば,福祉国家に対する態度は完全に一次元的ではなく,プログラム間の差異を考慮する必要がある.構造方程式モデリングの結果は,疾病と老齢に関する政策をめぐる対立が,失業と貧困に関する政策をめぐる対立と質的に異なることを示している.たとえば,疾病と老齢の次元では等価所得の効果が統計的に有意でない一方で,失業と貧困の次元では等価所得が有意な負の効果を持つ.低所得者が福祉国家をより強く支持するのは,彼らが疾病と老齢に関する政策ではなく,失業と貧困に関する政策をより強く支持するからである.このように,本稿の知見は,個人が福祉国家を支持する理由を理解するのに役立つ.

┃書 評┃
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