障害者の求める安全と,地域社会の安全は時に相反し,障害ゆえの表現が他害や触法とみなされるとき,衝突は先鋭化する.その狭間に立つ介助者は,対立では言い尽くせない葛藤を経験する. 本稿の目的は,1)国連最終見解を経た2020 年代の地域移行には「安全」という先端課題があることを確認したうえで,2)他害・触法に問われる障害者を介助する者がどのような支援に可能性を見出しているかを明らかにし,3)その支援が抱える限界との間で経験する葛藤を,介助当事者の視点から描写することにある.そのための方法として,介助者の当事者研究を用いた. その結果,次の2 つのテーゼが導かれた.①他害・触法に問われる障害者のリカバリーには免責領域が有効である.この支援観が,他害・触法に対する主流の応答である厳罰主義の対極にあり,そこに回復の可能性が示唆されたことは重要である.②ただし,免責領域を形成するケアは葛藤や罪意識を伴う仕事である.その支援観が支持される一方,「免責できても,罪は消えない」限界が指摘され,「その『罪』や『責任』は,どこに行くのか?」が問われた. 介助者の葛藤の根底には,安全を重視するケア言説がもつ「安全基地」と「社会防衛」の両義性があり,そのどちらもがケア現場に受容されうる実態を指摘した.介助者の葛藤は先取りされた社会の葛藤を映し出す.最後に,安全とケアをめぐる葛藤をワークスルーする必要を提示した.
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