福祉社会学研究
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┃特集論文Ⅰ┃福祉社会学の課題と展望――学会設立20年に寄せて
  • 学会設立20 年に寄せて
    平野 寛弥
    2024 年 21 巻 p. 7-11
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー
  • 計量家族研究からみた福祉社会学研究の課題
    稲葉 昭英
    2024 年 21 巻 p. 13-29
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    社会政策が家族主義的であるか否かにかかわらず,ほとんどすべての社会で家族は人びとの生活を保障する,人びとにとってもっとも身近で重要な共同体であり続けている.近年の家族研究によって明らかにされてきた家族の変化はどのような新たな研究課題を福祉社会学に突き付けているのだろうか.2000年以降の家族研究は社会階層による子どものライフコース格差を明らかにし,そうした格差がひとり親,貧困・低所得といった要因によって生じることを明らかにしてきた.しかし,ここにきて日本では出産退職の減少に伴う大卒共働きカップルが増加しており,豊かな層がより豊かになる形で格差が拡大し始めている.こうした新たな格差は男女共同参画やワークバランス推進の意図せざる結果として促進された側面がある.社会政策の意図せざる結果に注目し,その分析を行っていくことに福祉社会学研究の課題と存在意義があると本研究は考える.

  • 臨床研究と政策研究の架橋
    森川 美絵
    2024 年 21 巻 p. 31-49
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    本稿では,福祉社会学におけるケア研究のあり方について,臨床研究と政策研究の関係性や社会変動とのかかわりに着目して議論する.前半では,福祉社会学の対象としてのケアの位置づけられ方や,福祉社会学の特徴をふまえたケア研究について,『福祉社会学研究』の特集等に掲載された「福祉社会学の対象とあり方,課題」にかかわる議論を参照して整理する.そのうえで,ケア研究の課題として,ケアの実践・臨床にかかわる研究とケアの政策研究をつなぐ作業が不十分であること,そのことが実務的な政策立案の場における研究知見の活用を難しくしていることを指摘する.  後半では,社会変動を考慮にいれた議論の重要性を確認し,テクノロジーの進化という社会変動にかかわり,今後のケア研究で扱うべき研究テーマについて具体例を示す.政府が現在推進している「科学的介護」政策がケア実践にもたらしうるリスクを指摘し,そうしたリスクへの対抗的視点を持つ研究の一つとして,「科学的根拠に基づくケアの多次元化」を志向した研究があることを示す.また,その研究例として,筆者らが取り組んでいるケア評価尺度の開発と応用に向けた研究を紹介し,これらが,臨床場面のケアの現象学的理論化とケア政策研究とを架橋する試みでもあることを論じる.最後に,「科学的介護」時代の福祉社会学的なケア論とケア政策研究の関係,両者の架橋についてあらためて整理し,本稿のまとめとする.

  • 過疎高齢者と近隣地方都市の他出子との関係をもとに
    高野 和良
    2024 年 21 巻 p. 51-71
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    現在の過疎農村地域では,その内部と外部の間で取り結ばれる社会関係が増加し,多様化し,過疎農村地域の内部で生活が完結する傾向が弱まっている. 自家用車利用による社会移動が拡大し,生活の拠点を過疎農村地域に置きつつ,日常的に広域の移動を繰り返す住民が増えている.  こうした日常的な移動が,実は過疎農村地域で暮らす高齢者の生活を支えている.過疎高齢者を「世帯」としてみれば一人暮らし高齢世帯であっても,この高齢者に「家族」としての他出子がいる場合,食品の買い物や通院などで高齢者の生活を支えている事例は少なくない.  しかしながら,日常的な移動の拡大のもたらした影響と,世帯と家族との関係実態をふまえた,過疎地域の地域構造と生活構造の双方を捉えた現状分析は,必ずしも十分に行われてきたとは言い難い.そこで,本稿では過疎農村地域の地域構造を把握するためには,過疎農村地域と近隣の地方都市から形成される圏域として「過疎内包型地域圏」を設定する必要があることを指摘した.そのうえで,山口県萩市田万川地区で継続的に実施してきた社会調査結果をもとに,世帯としての高齢者世帯と,その家族である他出子との関係を確認することで,現代の過疎農村地域の生活構造の一端を示し,これらを通じて過疎地域での生活継続の可能性を検討するための手がかりを示した.

┃特集論文Ⅱ┃副田社会学の継承と発展
  • 畑本 裕介
    2024 年 21 巻 p. 75-79
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー
  • 副田義也・福祉社会学研究からの学び
    藤村 正之
    2024 年 21 巻 p. 81-100
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    副田義也氏の長きにわたる研究経歴とその間に残された仕事の概況を整理することを通じて,次世代の私たちが何を学びうるか,何を学ぶべきであるか,本稿では試論的な展開を試みる.  まず,研究の承継という観点で一般的に考えた場合の視点の設定を,研究者間関係,次世代に伝わりうるもの,研究成果の読まれ方に関しておこなう.次に,氏の多岐にわたる研究領域を,a.生活・福祉領域,b.文化・社会意識領域,c.政治・歴史領域の3 領域に分けて概括し,そのなかで特に生活・福祉領域で提起された観点として,a.生活構造論,b.老年社会学,c.扶養,d.社会問題の社会学,e.政治社会学としての福祉社会学などについて論ずる. そして,氏がなされた研究のなかの主な特徴として,立場間のフットワーク,理論への立ち位置,当事者合理性への共感と距離にふれる.それらの特徴の背景に氏の経歴も関連していようから,それへの知識社会学的検討を,時代性,自己表現,底流と岐路という観点からおこなうこととする.最後に,書くことの職人的実践者として,氏が伝えようとしたことについて付記する.

  • 社会学の「論文を書く」について
    株本 千鶴
    2024 年 21 巻 p. 101-120
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    副田先生は,人間と社会の本質を理解する学問として社会学の有効性を信じ,理解に重点をおいた社会学をめざしていた.そして,先生自身の自己実現のために,福祉社会学をはじめとする社会学的研究の進歩のために,理解し表現するというプロセスをふくむ,社会学の「論文を書く」努力を怠らなかった.その努力のなかで発揮された理解は,全体と部分のリアリティに迫る緻密なものであり,表現は,社会学の制約に拘泥しない自由で開拓的なものであった.先生はこれらを意識的かつ積極的に活用し,現在・未来の読者の人間・社会の理解に貢献する仕事をしようとした.  先生の仕事から,後進のわたしたちが引き継いでゆけるものはなにか.本稿の考察からみいだされた答えは,対象理解とその表現方法についての学習をつうじて,自己実現と社会学的研究の進歩のために,一生懸命にたゆまず「論文を書く」努力の姿勢と実践である.

  • 後期近代におけるライフ・ポリティクスの解明に向けて
    玉置 佑介
    2024 年 21 巻 p. 121-139
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    本稿は,後期近代における個人化と連帯のはざまに位置づけられる人びとの営みを把握していくための視点として,副田義也氏の「生活構造論」にいかなる可能性があるのかを検討する.その際,2000 年代以降に登場した新たなライフスタイルを視野に入れながら,氏の「生活構造論」の現代的な可能性を指摘する.具体的には,日本の都市社会学研究を概観しながら,高齢期における「未来の植民地化」の実践である「終活」を具体例にとりあげる.そこでは,ライフスタイルが強制されていくライフ・ポリティクスの側面を分析する可能性をもつものとして氏の「生活構造論」を位置づける.  そのうえで,主体的に自らの生活を基礎づけ,未来に向けて生活を安定化させようとする欲求を把握するため,「生活設計」および「生涯設計」という視点を考察する.最終的に,高齢期におけるライフスタイルの追求以外にも氏の「生活構造論」を援用することが可能であることを提示していく.加えて,後期近代を生きる人びとが,生活・福祉・文化にかかわる問題群をいかに処理しているのかを映し出すものとして氏の「生活構造論」という視点を位置づけ,われわれが副田義也氏の社会学的功績から後世に引き継ぐべき事柄は何か,試論的に展開していくこととしたい.

┃自由論文┃
  • 主体形成のプロセスと内在する考えに着目して
    鈴木 美貴
    2024 年 21 巻 p. 143-166
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    本稿では,地域共生社会が政策目標とされ公私のアクター間の協働が要請されているなか,住民主体で公私協働の体制を構築し地域の問題発見・解決の取り組みを実践している団体に焦点をあて,住民主体の公私協働を構築してきた住民リーダーの主体形成のプロセスを確認し,住民リーダーはどのような考えをもって活動を展開してきたのかを検討した.  住民リーダーは,スタッフに対して気遣いやねぎらいの言葉をかけ,計画立案の際には,スタッフに主体性を促し,起案を後押ししてコミュニティでやりがいを感じてもらうよう尽力していた.とりわけ,その人のアイディアによる成功であることを明確にアピールすることが重要だという認識が示されている. さらに問題発見・解決という明確なビジョンを団体で共有したことが公私協働を後押しした。もう一人の住民リーダーは,住民の声を代弁するうえで大きな役割を担っていた.職歴において備えてきた具体的な知識や経験値は,住民活動を展開するにおける後押しとなっている.また,弱い立場にある人の声を拾い上げることにも貢献していた。当該団体が参画している公的事業,さまざま展開されている自主活動,そして社会的弱者の声を代弁することのいずれも,地域の課題発見・解決につながっている.このようなリーダーの存在が公私協働の実現の一端を担っていた.

  • 介助者の葛藤と罪意識に着目して
    樋口 拓朗
    2024 年 21 巻 p. 167-192
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    障害者の求める安全と,地域社会の安全は時に相反し,障害ゆえの表現が他害や触法とみなされるとき,衝突は先鋭化する.その狭間に立つ介助者は,対立では言い尽くせない葛藤を経験する.  本稿の目的は,1)国連最終見解を経た2020 年代の地域移行には「安全」という先端課題があることを確認したうえで,2)他害・触法に問われる障害者を介助する者がどのような支援に可能性を見出しているかを明らかにし,3)その支援が抱える限界との間で経験する葛藤を,介助当事者の視点から描写することにある.そのための方法として,介助者の当事者研究を用いた.  その結果,次の2 つのテーゼが導かれた.①他害・触法に問われる障害者のリカバリーには免責領域が有効である.この支援観が,他害・触法に対する主流の応答である厳罰主義の対極にあり,そこに回復の可能性が示唆されたことは重要である.②ただし,免責領域を形成するケアは葛藤や罪意識を伴う仕事である.その支援観が支持される一方,「免責できても,罪は消えない」限界が指摘され,「その『罪』や『責任』は,どこに行くのか?」が問われた.  介助者の葛藤の根底には,安全を重視するケア言説がもつ「安全基地」と「社会防衛」の両義性があり,そのどちらもがケア現場に受容されうる実態を指摘した.介助者の葛藤は先取りされた社会の葛藤を映し出す.最後に,安全とケアをめぐる葛藤をワークスルーする必要を提示した.

  • 支援者の意味世界に着目して
    白石 恵那
    2024 年 21 巻 p. 193-217
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    2012 年の創設以降,放課後等デイサービスは事業規模を拡大し続け,社会的な存在感および需要を伸ばしてきたが,現場で支援者たちが直面するリアリティは十分にとらえられてこなかった.本稿では,行動療法的な発達支援の提供を謳う事業所に焦点を当て,語りの記述・分析を通して,支援者たちの意味世界においてどのような支援の論理が成立しているのか明らかにした.  まず,支援者たちの意味世界において,「子どもの変容を目的とする支援」として,「特定の欠点の克服」を目指す支援の論理だけでなく,問題を欠点そのものとは別次元に置くことで,その直接的な克服ではない「代替的な発達」を志向する支援の論理や,“今以上に良くなる必要性”を下げることで,むしろ子ども自身が現状の欠点も含めて「自己肯定できるようになるという変容」を志向する支援の論理が成立していることが明らかになった.また,子どもの変容を志向せず,子どもの「ありのままの受容」を支援目的とする支援の論理や,欠点とされうる特徴を肯定的にとらえることによって,「その子どもの“よさ”の維持」を志向する支援の論理も見出された.  そのうえで,発達支援として一般に期待される支援観に限定されない複数の支援の論理は,一見すると,変容をめぐって相反する支援観であるが,支援者たちの意味世界において,それらは複層的な論理構造を成しており,それによって併存していることが明らかになった.

  • きょうだいを持つ中年男性の語りから
    李 姝
    2024 年 21 巻 p. 219-239
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー

    本研究は,中国地方都市において,きょうだいを持つ,経済的に安定している中年男性へのインテンシヴなインタビュー調査を通じて,彼らの語りに基づき,息子たちがいかに自らが老親扶養を担っており,いかに他のきょうだいが老親扶養を担っていると意味づけ・解釈しているのかを明らかにした.その結果,現代中国の地方都市における老親扶養において,経済的に安定する中年男性(息子)たちは,経済的に安定しているがゆえに,「息子老親扶養規範」に呪縛されており,そのため自らの老親扶養を相対的に高く評価すると同時に,女きょうだい(娘)の老親扶養を過小評価してしまっている.また,現実的には「息子から娘への移行」がなされながらも,経済的に安定している息子たちは「息子老親扶養規範」に呪縛されながら,必死になって「息子としてのメンツ」を保つような試みを行っていた.したがって,「実際に家族の絆が強化されている」のではなく,「規範として家族の絆がある人たちにおいて強化されている」ことを明らかにした.

┃書 評┃
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