本州中部日本海沿岸におけるウグイスの渡りの様相を解明するため,新潟市の関屋海岸において1988年から14年間標識調査を実施した。関屋海岸の西海岸公園(北緯37°55'東経139°01')のクロマツ林内に調査地(約100m×150m)を設け,カスミ網12枚を用い,小鳥類の声をプレーバックしながら作業を行った。調査結果を便宜上,春季(4月1日~5月15日:45日間)および秋季(10月5日~11月18日:45日間)に大別し,各季の捕獲数を雌雄別に整理•比較した。また,雄または雌が捕獲された日について,1日当たりの雄または雌の捕獲数をDCI (daily catch index)として求め,この数値の各季節平均値と性比を指標にして移動時期の性差を検討した。その結果,次のことが明らかになった。春の渡りでは総計1,959羽のウグイスが捕獲され,そのうち雄は810羽,雌は1,149羽であった。春の渡りにおける雌の性比は平均58.6±6.1%(n=14)で秋の渡りにおける該当値(平均45.5±5.4,n=14)より有意に(
P<0.001)高かった。また,有意差は認められないものの,春の渡り14シーズンにおける雌の平均DCI値(3.8±0.9)は雄の該当値(3.1±0.9)よりやや高い傾向が示された。一方,移動時期は雄が雌より早い傾向が認められ,その移動盛期は4月上旬~下旬,雌のそれは4月中旬~5月中旬であった。秋の渡りでは,春の数より約4倍多い総計7,860羽(雄4,201羽,雌3,659羽)が捕獲され,移動の盛期は10月下旬から11月上旬であった。これは,秋の移動群において幼鳥が占める高い割合(雄で66.5~93.1%;雌で79.2~96.3%)を反映した結果と推察された。秋の渡りでは,春に見られたような性比の偏り傾向や移動時期の性差は認められなかった。また,関屋海岸に関する国内回収記録11例を見ると,新潟の海岸は,本種の渡りにおいて北海道と近畿ないし山陰を結ぶ中継地として利用されていることが示唆された。
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