山階鳥類学雑誌
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42 巻 , 1 号
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特集論文:オーストラリア熱帯モンスーン地域における鳥類の生活史と社会生活
  • 江口 和洋
    2010 年 42 巻 1 号 p. 1-18
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    オーストラリアモンスーン熱帯を中心に,熱帯における鳥類の生活史の進化に関する最近の研究を概説した。熱帯においては,1) 一腹卵数が小さく,2) 成鳥の生存率が高いことが,多くの資料を用いて,系統と生息場所の要因を除去した比較研究によって検証されている。一方,従来,熱帯特有の傾向があると考えられていた,捕食圧,抱卵日数,育雛日数,一繁殖期間中の繁殖回数は温帯との違いは見られず,給餌回数,餌サイズ,総給餌量は熱帯のデータが不十分である。オーストラリアモンスーン地域では,年間の気温変化は小さく,6ヶ月間の顕著な雨季と乾季の交代が見られる。昆虫,蜜などの餌資源は極端に枯渇する時期がなく,1年を通じての変化は北半球温帯に比べて小さい。鳥類の繁殖はどの月にも見られるが,餌資源の変化に応じて,種毎に繁殖期間が大きく異なり,多様なパターンを示す。生活史の特徴は他の地域の熱帯性鳥類と同様である。特徴的であるのは,協同繁殖種の多さと野火への適応である。季節変動の小さい餌資源の利用は,成鳥の高い生存と個体群の転換率の低下,若鳥の繁殖開始の遅延,出自なわばりへの長期間の残留を促進し,これらは協同繁殖の素因となり,オーストラリア産鳥類に多くの協同繁殖種を出現させたと考えられる。頻繁な野火は鳥類の生息,繁殖の障害となる一方,野火により出現した新しい餌資源や採餌場所を利用して繁殖成功を高めたり,野火の影響を軽減する行動習性を持つ種が出現している。
  • 勝野 陽子, 沖田 智樹, 山口 典之, 西海 功, 江口 和洋
    2010 年 42 巻 1 号 p. 19-33
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    オオニワシドリのオスはあずまやと呼ばれる構造物を造り,その周りにさまざまな飾り物を集め,求愛ディスプレイを行う。我々は,オーストラリア北部準州ダーウィン北部の熱帯サバンナにおいて,ニワシドリのあずまや構造と飾り物の量がオスの交尾成功に影響を及ぼすかどうかを検証した。2005,2006年に,それぞれ,16カ所と14カ所のあずまやにおいて,あずまや構造と飾り物の占める面積,および,あずまやオーナーの交尾成功を調べ,一般化線形混合モデルを適用し,分析した。あずまや構造としてはアベニューの長さと幅,あずまやの壁の厚さ(両側の平均値),あずまやの高さ,壁の非対称性(=壁の厚さの差の絶対値/両方の壁の平均)の5変数,飾り物としては緑の飾り物の占める面積と飾り物全体の占める面積の2変数を説明変数として計算した。総当たりのモデル選択の結果,全7変数のうちアベニューの長さと壁の厚さが交尾成功に対して正の影響因子として重要で,アベニューの幅が負の影響因子として重要であることがわかったが,飾り物の2変数は影響因子としての重要度は低かった。アベニューの長さと壁の厚さはあずまやの大きさと関係し,オスの激しいディスプレイからメスを物理的,心理的に防御し,メスがより長くあずまやに滞在することを促すと示唆された。長くて狭いアベニューはオスの任意のアベニューへの侵入を妨げ,交尾マウントの過程をメスが支配し,オスからのハラスメントを防ぐことを可能としていると考えられた。緑の飾り物はあずまやの入り口付近に置かれ,オスはディスプレイの際にこれらの飾り物を加えてメスに示すような行動を取ることから,ディスプレイの時に必要ではあるが,量は交尾成功には影響しないと考えられた。
  • 沖田 智樹, 勝野 陽子, 江口 和洋, Richard A. Noske
    2010 年 42 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    多くの動物では,オスは複数の手段で求愛ディスプレイを行うことが知られている。このような多重的性的シグナルに対するメスの選り好みについては多くの研究がなされているが,シグナル間の相互作用についてはほとんど研究がない。著者らは,オオニワシドリ Chlamydera nuchalis の求愛ディスプレイを分析し,性的シグナル間の相互作用と,交尾成功との関連を明らかにした。本種ではオスがあずまやを作りメスを誘引するが,あずまやを訪れた雌に対して盛んにディスプレイ行動を行う。あずまやと行動ディスプレイは異なる性格の性的シグナルである。行動ディスプレイには,音声的要素としての「チッチッ」音と,運動的要素としてのあずまやの周辺でのダンスが見られた。「チッチッ」音には3つの異なるスペクトル型 (SS, MS, LS) があり,メスの選り好みに重要な役を果たし,大きく長いLS型の音声をよく発するオスはより多くのメスと交尾できた。この事実は激しいディスプレイは交尾成功を高めることを示唆している。さらに,LS型音声をよく発するオスのあずまやはより大きかった。この事実は,あずまやはメスにオスの激しいディスプレイからの安全な場所を提供し,これによりオスはディスプレイの激しさをさらに高めることができることを示唆している。これらの結果は,異なる種類の性的シグナルが相互に作用し合っていることを示している。
  • 中村 真央, 高木 義栄, 森 さやか, 上田 恵介, 西海 功, 高木 昌興, Richard A. Noske, 江口 和洋
    2010 年 42 巻 1 号 p. 47-64
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    オーストラリア熱帯モンスーン地域に生息するセアカオーストラリアムシクイの非繁殖期群の群れ構成に与える野火の影響に関して研究を行った。全体として,平均群れサイズは乾季の中頃で大きく,季節の進行とともに縮小した。大きな群れは野火で焼け出された地域に多く出現し,野火の及ばなかった地域では2個体だけの群れが多く,平均群れサイズは焼けた地域より小さかった。野火は生息場所を破壊し,生息個体の移出を引き起こした。一方,野火の及ばなかった地域は,一時的な避難場所となったが, このような安定した地域は小サイズの群れのなわばりで飽和しており,移入個体は再移出を余儀なくされた。野火の後,焼け出された地域には多くの個体が周辺部から移入し,不安定な大サイズの群れを形成した。これらの群れも,季節の進行とともに,群れメンバーの若い個体の離脱により,繁殖期直前には群れサイズが縮小した。 野火は個体群の再構成となわばりの入れ替わりを引き起こした。
  • 佐藤 望, 森本 元, Richard A. Noske, 上田 恵介
    2010 年 42 巻 1 号 p. 65-78
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    オーストラリア北部の熱帯地域の海岸に広がるマングローブ林では,巣への捕食圧が高いことが知られている。この地域には,2種のセンニョムシクイ類(ハシブトセンニョムシクイGerygone magnirostris とマングローブセンニョムシクイ G. levigaster)が同所的に生息している。ハシブトセンニョムシクイは主に,暗く生い茂ったマングローブ林内に潮汐によって生じる小川(tidal creek)の周辺に営巣し,マングローブセンニョムシクイはマングローブ林縁の干潟(salt flat)に点在する薮や孤立木に営巣する。近縁な両種は,ともにドーム型の巣を造るが,巣の大きさや色彩,形態が大きく異なる。このような営巣環境の違いと巣の外観の違いは,両種の巣への捕食と関連があるかもしれない 。そこで我々は人工巣を用いて,両種の巣の外観が捕食を避けるために,営巣環境に適応しているのかどうかを検証した。また,捕食者の特定も行なった。本実験より,マングローブセンニョムシクイの人工巣への捕食圧は,主たる営巣場所(salt flat)では,それ以外の営巣場所よりも低い傾向がみられた。一方,ハシブトセンニョムシクイでは営巣環境と捕食率の関連性ははっきりしなかった。これらの結果から,マングローブセンニョムシクイの巣は,主な営巣環境で捕食者の回避において適応的である可能性がある。また,捕食者を1例(キミドリコウライウグイス Oriolus flavocinctus)特定した。
原著論文
  • 富田 直樹, 染谷 さやか, 西海 功, 長谷川 理, 井上 裕紀子, 高木 昌興
    2010 年 42 巻 1 号 p. 79-90
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    北海道苫前郡羽幌町天売島の天売港において,黄色の脚をもつ大型カモメ類の死体1個体の回収を行った。Olsen & Larsson (2003) に従い,死体標本は,主に背上面および翼上面の色と初列風切の模様の特徴からロシアのコラ半島からタイミル半島の南東部で繁殖する Larus heuglini と同定された。しかし,亜種を完全に区別することはできなかった。また,ミトコンドリアDNAのチトクロームb 領域と調節領域の塩基配列における先行研究との比較では,死体標本の持つ変異が近縁な種・亜種グループに共通して保有されるタイプと一致した。結果として,死体標本が帰属する分類群として可能性のあった候補のうち L. fuscus fuscus, L. h. heuglini, L. cachinnans barabensis, L. h. taimyrensis のいずれかであることまでは絞り込めたが,特定の種もしくは亜種まで明確に示すことはできなかった。L. heuglini とその近縁種については,交雑や遺伝子流動などの理由から分類学的に未解決の問題が多い。本研究において,死体標本やDNA標本による客観的なデータに基づいても,大型カモメ類の種・亜種を正確に同定することは,非常に困難であることが示された。
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