山階鳥類学雑誌
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46 巻, 2 号
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原著論文
  • 山本 誉士, 河野 裕美, 水谷 晃, 依田 憲
    2015 年 46 巻 2 号 p. 67-81
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,西表島の南西15 kmに位置するオオミズナギドリCalonectris leucomelasの繁殖地である仲ノ神島において,本種の繁殖個体数の推定,および巣穴構造の調査をおこなった。オオミズナギドリの巣穴は調査域全域にみられたが,平地や緩斜面では高密度であった。巣穴密度は,高密度区で0.64±0.22巣/m2,ガジュマル区で0.19±0.15巣/m2,低密度区で0.10±0.10巣/m2であった。また,繁殖巣穴密度は,高密度区で0.13±0.10巣/m2,ガジュマル区で0.01±0.03巣/m2,低密度区で0.01±0.03巣/m2であった。各区画について,巣穴密度および営巣密度と面積を乗じて足し合わせた結果,仲ノ神島におけるオオミズナギドリの巣穴数および営巣数はそれぞれ18,853巣と2,783巣,そして繁殖個体数は5,566羽と推定された。仲ノ神島におけるオオミズナギドリの巣穴の採掘方向には一定の方向性が見られ,斜面にある巣では斜面下に向いており,平地では最も近い海側に向いていた。また,巣穴構造には「棒形」と「くの字型」がみられ,巣穴の長さは棒型で75±22 cm,くの字型で99±20 cmであった。

短報
  • 黒沢 令子, 堀本 富宏
    2015 年 46 巻 2 号 p. 83-88
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー

    北海道南部の室蘭市では1984年の初確認後,1993年からカササギPica picaが定常的に観察されるようになった。本論文では地元の野鳥観察者による観察記録をとりまとめて,10年毎に分布の変遷を検討した。カササギは第1期(1984~1993年)には最初に確認された場所の周辺地域に留まり,そこで繁殖を始めた(原地域)。第2期(1994~2003年)には,原地域から平野伝いに東側へ広がった。その後には調査範囲を越えてさらに東へ拡大していったが,調査地域内では大きな変化はなかった。第3期(2004~2013年)には,丘陵地を越えて西側へ分布が拡大した。

    カササギの分布は低地の平野に限定されており,起伏のある地形を越えて西側へ分布が拡大するまでに時間がかかったと思われる。繁殖率は高くはないが定着性が強いので,第3期には最大で10羽の群が観察され,密度が高まっていったと思われる。この間,密度増加の過程において,西側へも分布が拡大した可能性がある。

  • 栄村 奈緒子, 古谷 亘, 安藤 温子, 出口 智広
    2015 年 46 巻 2 号 p. 89-100
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー

    現在の小笠原諸島では自然再生事業による様々な生態系の変化が生じている.その効果を判定するためには,生物相の変化をきめ細かにモニタリングすることが必要である.小笠原諸島の無人島である聟島では,自然再生事業によって侵略的な外来哺乳類であるヤギCapra aegagrusとクマネズミRattus rattusが近年駆除されたが,その駆除に対する陸鳥への効果を判定出来る基礎的なデータがない.本研究は現在の聟島における鳥類の生息状況を定量的に調べることで,自然再生事業による今後のモニタリングに貢献することを目的とする.今回,我々はルートセンサスを島内2カ所で行い,ネズミ駆除前(2007年)と駆除直後(2011–2012年)における陸鳥の種数と個体数の比較を行った.さらに,2008年から2012年の2月から5月の聟島滞在中に観察された鳥類の種類と数も記録した.ルートセンサスの結果,継続的に観察された在来種のイソヒヨドリMonticola solitariusと移入種のメジロZosterops japonicusのうち,1つのルートにおいてイソヒヨドリ個体数の増加が駆除後に確認された以外は,変化が見られなかった.目視観察では,合計74種のうち32種が聟島で新たに観察された.これらの結果は,将来的に聟島における自然再生事業の効果の評価に寄与すると期待できる.

  • 出口 翔大, 千葉 晃, 中田 誠
    2015 年 46 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー

    本州では一般に標高700 m~1,600 mの開けた山林や林縁で繁殖するといわれているアオジEmberiza spodocephalaが,新潟県では近年,平野部の海岸クロマツPinus thunbergii林において繁殖事例が認められるようになった。アオジはやぶを好み,地上から低木層に営巣することが知られている。本研究では新潟市の海岸クロマツ林において,人為的な管理を受けて低木層が貧弱な区画と広葉樹が侵入し低木層が密な区画との間で繁殖期のアオジの生息密度を比較した。その結果,アオジは後者に高密度に生息していることが明らかとなった。

  • 河野 裕美, 水谷 晃
    2015 年 46 巻 2 号 p. 108-118
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー

    カツオドリSula leucogasterは,世界の熱帯から亜熱帯海域に4亜種が分布する.本種は島嶼間の移動が少なく,遺伝的交雑が低いと考えられてきた.しかし,東太平洋海盆を挟んで西側に生息する亜種カツオドリS. l. plotusが東方へ,東側に生息する亜種シロガシラカツオドリS. l. brewsteriが西方へそれぞれ分散して繁殖した例が報告されている.さらに,西部太平洋に位置する琉球列島南部の仲ノ神島において,2009年5月17日に頭部から頸部が白色の亜種シロガシラカツオドリの成鳥の雄1羽が飛来した.その後,2014年まで,同じ場所で同個体と思われる雄が断続的に確認され,2012年から2014年まで仲ノ神島個体群の繁殖スケジュールと同調して,亜種カツオドリと思われる雌と繁殖し,雛を巣立たせた.さらに2011年以降には,同島の別の場所で白色頭部の雄1羽が断続的に記録されるようになった.この雄は雌に対する求愛を行ったが,2014年までつがいは形成されなかった.本観察により亜種シロガシラカツオドリの日本における繁殖行動が初めて確認され,同時に別亜種の繁殖地に飛来した個体によるつがい形成から繁殖までの過程を記録できた.

  • 川路 則友, 川路 仁子
    2015 年 46 巻 2 号 p. 119-126
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー

    北海道西部低地落葉広葉樹林では,これまでツツドリCuculus optatusによる宿主卵とは大きく異なる赤褐色卵の托卵例がセンダイムシクイPhylloscopus coronatus,メジロZosterops japonicusおよびヤブサメUrosphena squameicepsで報告されているが,今回ツツドリに托卵されたアオジEmberiza spodocephalaの巣を発見し,仮親による抱卵,育雛行動を観察した。巣はチシマザサSasa kurilensisの高さ1.6 mの部分にかけられていたが,発見時の巣内には卵は入っておらず,3日後に赤褐色卵1個のみが産み込まれていた。ツツドリの卵は約12~13日間の抱卵ののちふ化し,約18日間の育雛ののち巣立った。調査地では,ツツドリはセンダイムシクイに托卵する例が多く,アオジに対する托卵は今回が初めてであったが,アオジが巣内にある自分の卵色とまったく異なるツツドリの卵のみを受け入れ,無事巣立たせたものとして貴重な例となる。

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