26酵素遺伝子座のアイソザイムをもとにカエデチョウ科の42種(2亜種,1品種を含む),188個体の遺伝的変異と分化を調査し,カエデチョウ科の類縁関係,進化について論じた。
(1) 種内の遺伝的変異は42種中26種(1亜種を含む)にみられ,全種の平均ヘテロ接合体率は0.098という値を示し,スズメ目鳥類としてはやや低い値であった。
(2) カエデチョウ科の遺伝的分化の程度は,種レベルの平均の遺伝的距離が0.193で,鳥類の平均値よりやや大きかった。これは計算のもととなったいくつかの属の分類に問題があるように考えられた。属レベルでの値は0.397で,鳥類の平均値よりやや大きかった。これはこの科の属の系統の古いことを示していると考えられた。
(3) UPGMA法による系統樹では,カエデチョウ科はカエデチョウ類とキンパラ類の二つに大別され,この2群は亜科(カエデチョウ亜科Estrildinae,キンパラ亜科Lonchurinae)に相当すると考えられた。従来の分類でキンパラ類に近いとされていたセイコウチョウ属,コキンチョウ属はカエデチョウ亜科内に含まれたが,カエデチョウ亜科内からキンパラ亜科への種の移動はみられなかった。
(4) カエデチョウ亜科内には3群が認められ,イッコウチョウ族(
Amadini),カエデチョウ族(
Estrildi),セイコウチョウ族(
Erythruri)とした。キンパラ亜科内にも3群が認められ,キンセイチョウ族(
Poephili),キンパラ族(
Lonchuri),ムナジロシマコキン族(
Heteromunii),とし,カエデチョウ科内に6族を認めた。
(5) カエデチョウ科6族の種類,分布,遺伝的分化をもとに,この科の起源のアフリカ説を支持し,系統樹から6族の類縁図を作成しカエデチョウ科の進化についてふれた。
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