日本海の対馬暖流域の島根県沿岸で1986年1月に油汚染死したウトウ44羽を分析した。1羽当たりの油の平均付着量は128g(レンジ12~300g)(n=38)で,これは鳥の体重の平均31%(レンジ4~72%)に相当した。翼開時の総体表面積の平均約40%(レンジ10~95%)に油が付着していた。44羽中6羽の消化管に魚類の数個の骨片あるいは脊椎骨片を認めたが,残る38羽の消化管には餌生物が皆無であった。44羽のうち,77%にあたる34羽が一部の消化管に非油性の黒液を含み,残る10羽は,食道,胃,腸などの全消化管に黒液を全く含まなかった。消化管内の黒液の有無と量の多少は,体の付着油量および面積のどちらとも相関を示さなかった。これらの結果は,油に汚染したウトウが、体の汚染量と、消化管内の黒液の有無および,その量に無関係に死亡していたことを示す。ガスクロマトグラフ法での分析の結果,羽毛に付着した油は重油と同定されたが,消化管の黒液は
n-アルカンを含むものの,重油とは組成が大きく異なり,別の起源と判断された。さらに,この黒液の
n-アルカンは,本州の太平洋岸で死んで発見された非油濁ウトウの消化管内液
n-アルカンのうち,軽アルカン域の分布と2種(フィタン,プリスタン)のバイオマーカーが極めて類似していた。非油汚染鳥にも石油起源と判断される
n-アルカンが取り込まれていたため,日本周辺海域の油汚染が海鳥にどう関与しているかを調べるために,体に油が付着した海鳥のみならず付着していない海鳥の消化管内の石油成分を分析することが望まれる。
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