山階鳥類研究所研究報告
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30 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • その現状と今後の課題
    松原 健司, 南 浩史
    1998 年 30 巻 2 号 p. 59-82
    発行日: 1998/11/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    動物の炭素安定同位体比は,餌のそれと近似した値を示すため,餌あるいは生態系の炭素源の指標として利用される。他方,動物の窒素安定同位体比は,餌のそれに対してほぼ3.4±1.0‰の割合で濃縮される。そのため窒素安定同位体比は,動物の栄養段階の指標として利用される。鳥類の安定同位体比は同化された餌のそれを反映するため,消化管内容物の分析など従来の生態学的手法による食性解析と比較して,餌生物の過小•過大評価をさけることが可能である。ウズラなどを用いた実験によって,各臓器の炭素安定同位体の交換率が明らかにされた。その結果,複数の臓器の同位体比を比較することによって1週間から1年以上の期間に及ぶ餌の変動を解析することが可能になった。こうした知見をもとに,食性解析,行動圏や渡りルートの推定,生息環境における物質循環など,鳥類生態学の様々な分野において,安定同位体測定法はその有効性を発揮している。今後は,炭素と窒素だけではなく,水素,酸素,ストロンチウムなどの安定同位体比を利用した研究も盛んになると期待される。それとともに,より詳細な生理•生化学的な見地からの実験的基礎研究の必要性も指摘されている。
  • 前田 琢
    1998 年 30 巻 2 号 p. 83-100
    発行日: 1998/11/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    東京都西部の12か所の異なった住宅地において,越冬期(1990年12月~91年1月)と繁殖期(1991年5~6月)の鳥類群集を調べ,種数,種構成,生息密度に影響する環境の特徴を明らかにした。また,住宅地内の土地を植生に覆われた土地,建物に占められた土地,裸地に分け,それぞれに対する鳥の選択性を検討した。越冬期,繁殖期とも,植生の豊富な住宅地では鳥類の種数や生息密度が高い傾向にあり,高木(8m以上)の密度や平均樹高は,種数の変異を最もよく説明する要因であった。越冬期には低木層(0.5~2m)の被度も鳥類種数に関係していた。一方,建物の量が増加するにつれ,越冬期の鳥類種数は減少したが繁殖期の種数は逆に増加する関係があった。スズメはほとんどの住宅地で最も優占している種だったが,植生のきわめて少ない環境では密度が低かった。植生に覆われた土地はほとんどの鳥種に好んで利用されていたが,建物に占められた土地や裸地(おもに道路)は忌避される傾向が強かった。各土地タイプに出現した鳥類の種数を面積割合から統計的に期待される種数と比べたところ,建物に占められた土地や裸地では期待値より少ない種数しか出現しなかった。住宅地の環境の違いによる鳥類群集の違いから,多様な鳥相を保全するたあに求められる住宅地の環境基準について提案を行なった。
  • 加藤 明子, 綿貫 豊, 内藤 靖彦
    1998 年 30 巻 2 号 p. 101-108
    発行日: 1998/11/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    電波発信機および小型潜水行動記録計を用いて天売島で繁殖するウミウ(phalacrocorax filamentosus)の雌雄各1羽について採餌場所と潜水行動を同時に記録した。ウミウは繁殖地の島から5km以内と17~27kmの島と北海道本島の間で採餌しており,各個体はそれぞれ決まった採餌場所へ行く傾向があった。採餌海域は水深10~60mで海底は主に岩礁と砂であった。雄は40m以浅の海域では海底まで潜って底層魚を採食し,深い海域では浅い潜水を行って,浮魚を採食していた。一方雌は採餌海域の深さに係わらず浅い潜水を行っており,主に浮魚を採食していたと考えられる。
  • 岡 奈理子, 奥山 正樹
    1998 年 30 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 1998/11/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    日本海の対馬暖流域の島根県沿岸で1986年1月に油汚染死したウトウ44羽を分析した。1羽当たりの油の平均付着量は128g(レンジ12~300g)(n=38)で,これは鳥の体重の平均31%(レンジ4~72%)に相当した。翼開時の総体表面積の平均約40%(レンジ10~95%)に油が付着していた。44羽中6羽の消化管に魚類の数個の骨片あるいは脊椎骨片を認めたが,残る38羽の消化管には餌生物が皆無であった。44羽のうち,77%にあたる34羽が一部の消化管に非油性の黒液を含み,残る10羽は,食道,胃,腸などの全消化管に黒液を全く含まなかった。消化管内の黒液の有無と量の多少は,体の付着油量および面積のどちらとも相関を示さなかった。これらの結果は,油に汚染したウトウが、体の汚染量と、消化管内の黒液の有無および,その量に無関係に死亡していたことを示す。ガスクロマトグラフ法での分析の結果,羽毛に付着した油は重油と同定されたが,消化管の黒液はn-アルカンを含むものの,重油とは組成が大きく異なり,別の起源と判断された。さらに,この黒液のn-アルカンは,本州の太平洋岸で死んで発見された非油濁ウトウの消化管内液n-アルカンのうち,軽アルカン域の分布と2種(フィタン,プリスタン)のバイオマーカーが極めて類似していた。非油汚染鳥にも石油起源と判断されるn-アルカンが取り込まれていたため,日本周辺海域の油汚染が海鳥にどう関与しているかを調べるために,体に油が付着した海鳥のみならず付着していない海鳥の消化管内の石油成分を分析することが望まれる。
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