山階鳥類研究所研究報告
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31 巻 , 1 号
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  • 岡 奈理子
    1999 年 31 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 1999/03/31
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    油の流出は,特に20世紀後半に入り,大陸棚•沿岸域に生息する海鳥にしばしば多大な被害を及ぼしてきた。日本でも1997年1月に日本海でロシア船から多量の重油が流出し,海鳥が油汚染の被害を受け,海岸で発見されたものだけでも1,315羽が死亡あるいは衰弱している。そのうち約90羽が救護され洗浄,リハビリ後に,放鳥された。油汚染鳥の救護の歴史は幾つかの国々で長く,これまで全体で,少なくとも3~4万羽の油汚染海鳥が救護され放鳥されている。油を洗浄し放鳥された海鳥が生残し,それぞれの個体群の動態に関与できているかの検証が,保全生物学的な観点からここ10数年来,要望されてきた。本稿は海外(英国,オランダ,北米,南アフリカ共和国)で最近相次いで提出された油汚染リハビリ海鳥の放鳥後の生残についての研究結果に基づき,リハビリ放鳥された油汚染経験海鳥の動向を考察し,現状と問題点を整理した。
    標識放鳥された海鳥の回収状況から推定された放鳥後の生残率と生残日数は,亜高緯度海域で救護後に標識放鳥された潜水性海鳥4種(ウミガラス,クビナガカイツブリ,ビロードキンクロ,アラナミキンクロ)ですべて著しく悪く,たとえば英国のウミガラスで放鳥初年の生残率が0.6%,北米のウミガラスの平均余命が9.6日と推定されている。電波発信機を装着し追跡した中緯度海域の水面採食型のカッショクペリカンでは,先の潜水性海鳥よりも生残期間が長かったものの,繁殖に参加できていない。これとは対照的に,南アリカ共和国で救護され,標識放鳥された中緯度海域のジャッカスペンギンは,放鳥初年度に約半数が生残し,次年度の年生残率は健常個体群に匹敵していた。このペンギンは国際レッドデータブックで準危惧種に指定されており,油汚染個体のリハビリ放鳥は,この種の地域個体群,あるいは場合によっては種個体群そのものの減少を幾分緩和するのに成功してきたとみなせるだろう。油汚染した海鳥を救護して放鳥しても現状では保全効果がない北半球の浅海•沿岸性潜水型鳥類や表面採食型鳥類で,有効なリハビリ技術が開発され,今後これらの鳥類の生残を高めることが可能となれば,積極的な保全要請の高い絶滅危惧種あるいは危急種などが油汚染した場合に,有効な救護手段の一つになりえると考えられる。
  • 梶ヶ谷 博, 岡 奈理子
    1999 年 31 巻 1 号 p. 16-38
    発行日: 1999/03/31
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    油が鳥類の体表面に付着した時と油を摂取した時の影響について,これまで行われた研究の知見を紹介し,論議した。油汚染死した鳥種には偏りがみられるため,本論文では,水鳥を分布域と生活型に基づき整理し,油に被曝しやすい度合いから5群集に区分し,6目6科26属計約100種からなる浅海•沿岸潜水適応型鳥類群集が最も流出油に被曝しやすいことを提示した。羽毛に付着した油は,海鳥の防水能を劣化させ体温の低下を引き起こすが,生体は熱代謝量を増加させ通常の体温を維持しようとする。低温下,終日洋上で着水して過ごす潜水性海鳥グループでは,羽毛の汚染による熱の消耗が極めて大きく,各個体の持つ熱補償力を上回り,熱代謝能の不全が生じる。これが,おそらく海鳥にとって油汚染の最も急性的で,時には致命的影響を及ぼすと考えられている。消化管経由で摂取された油は消化管粘膜からの高張液吸収を阻害し,結果として塩腺からの過剰な塩類排出を減少させる。これは浸透圧バランスと水分出納を悪化させることとなる。消化管から摂取した油成分は肝臓で解毒されるが,解毒が過剰になるとコルチコステロンなどのホルモン代謝へも影響する。その結果,このホルモンと関連する浸透圧調節機構あるいはストレス抵抗性が悪影響を受ける。油汚染を受けた鳥では,自然例でも実験例でも,病理学的変化としては肝臓や脾臓のヘモジデリン沈着,赤血球数の減少,赤血球におけるハインツ体の出現などが認められる。また,油汚染鳥のストレス発現の証左として副腎の腫大,リンパ性器官の萎縮,さらにしばしばコルチコステロンの上昇も報告されている。しかし,ストレスに関連する事柄の解析は難しく,確かな結論は得られていないのが現状である。油が卵や親鳥に及ぼす影響については繁殖率の低下として知られており,卵殻厚減少や産卵率低下,胚死亡率増加,奇形発現などが報告されている。こうした影響は鳥の年齢が若いほど,あるいは胚日齢が若いほど大きい。
  • Zhiming Han, Fulai Li, Yan Liu, Bin Liu
    1999 年 31 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 1999/03/31
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    17個体のトキ(Nipponia nippon)が北京動物園で飼育されている。RAPD-DNA多型分析法を初めてトキに適用し,17個体中8個体の血縁関係を調べた。20種類の任意に選択したPCRプライマーを使って8個体のゲノムDNAからDNA断片の増幅を試みた結果,17種類のプライマーにおいて8個体すべてではっきりしたRAPDパターンが得られた。17種類のプライマーにより増幅されたDNA断片は合計168種類を数え,うち102の断片は8個体すべてが共通して保有する断片であった。spss/pc+プログラムを使った階層的クラスター分析によりこのRAPDデータから個体間の類似係数が計算され,類似係数行列を基に樹形図が作成された。この樹形図は8個体のトキの遺伝子レベルでの血縁関係を示す。この研究はすべてのトキの血縁関係の樹形図を作る基礎となり,トキの保護計画のより良い遂行に貢献するだろう。
  • 早矢仕 有子
    1999 年 31 巻 1 号 p. 45-61
    発行日: 1999/03/31
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    主に博物館等に所蔵されている標本に基づいて,シマフクロウ(Ketupa blakistoni)の北海道における分布の変遷を調査した。日本国内に100体のシマフクロウ標本(骨格標本および冷凍保存を含む)の存在が確認された。そのうち87体が北海道内に,13体が北海道外で収蔵されていた。採集(保護•収容)地および採集年月日に関して一定の情報が得られているのは69体(すでに廃棄されたものを含む),由来が不明のものは35体であった。標本資料から確認できた北海道内のシマフクロウの分布域の最北部は上川支庁美深町であり,1950~60年代初頭の生息が確認できた。アイヌの祭事に関する記述からは,昭和初期にはさらに北部の天塩川中•下流域に生息していた可能性が高い。一方分布域の南限は函館市近郊の大沼であり,1800年代の生息が確認された。過去においてシマフクロウが生息しており,現在までに生息が確認できなくなった地域は,函館市周辺から内浦湾岸に至る北海道南部,札幌市周辺の石狩平野一帯,天塩川流域の北海道北部であった。北海道南部から消失したのは1950年代前後,北海道北部で1970年代,石狩平野から姿を消したのは1980年前後であったと推察される。北海道南部•北部からシマフクロウが消失したと推察される1950年代は北海道において国有林の天然林が大面積皆伐され,単一樹種の針葉樹の造林地へ転換され始めた時期と一致する。この森林の改変が生息地の消失の最大の要因であると推察される。1954~1995年の間に収集された回収地が判明している死体あるいは保護後死亡した54個体のうち38個体(70.4%)に関して死因に関する情報が残されており,死因が明らかな31個体(57.4%)はすべてが人為的要因による事故死であった。死因で最も多かったのが養魚場や孵化場で防鳥網等により引き起こされた溺死で14件(36.8%),交通事故が8件(21.1%),電線での感電死が5件(13.2%),トラバサミによる死亡が2件(5.3%),海岸での防波ブロックに侵入しての溺死と高校の煙突に侵入して死亡した事例が1件づつであった。北海道におけるシマフクロウの過去の分布をさらに正確に握するために,古文書等の文献調査とアイヌ民族への聞き取りが必要である。
  • 寺沢 孝毅
    1999 年 31 巻 1 号 p. i
    発行日: 1999/03/31
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
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