高等動物の体内に微生物や異質の物質が侵入したり, 突然変異によってがん細胞のような異質の細胞が生成すると, 抗体を産生して, これを除去しようとする機能が始動する。一方, この機能が過度に進行すると, アレルギーやアナフィラキシーなどの激しい疾患が発症する。理這部で化学の教育を受けた筆者が医学の研究所で免疫学の研究を始めたときに浮んだ素朴な疑問は"抗原と抗体の二つのタンパク質が物理的に結合すると, ときによっては数分以内に死を招くような強烈な生物学的変化が起こるが, その仕組みはどうなっているのだろうか"ということであった。それ以来, 共有結合でないという意味で"弱い"タンパク質分子間の相互作用が病原微生物から生体を防御したり, 種々の疾患を発症させたりする生物学的変化を始動する過程を物質レベルで捉えることが筆者にとって大きな魅力ある研究テーマとなった。研究を始めた頃, 抗体が生物学的変化を誘発する過程の初期の段階になんらかの酵素反応が介在するだろうと予想したが, 抗体の構造や機能の理解も漠然としていたので, 具体的な研究の手掛りは全く得られず, 暗中模索の状態であった。その後, 免疫学は急速に発展し, 現在では, 一次構造のみならず高次構造もわかった抗体もある。また, 抗原に結合した抗体によって活性化されて, 種々の生物学的変化の引金となるプロテアーゼも証明されている。この小文では, 抗体の抗原との相互作用と, それによって活性化される補体系のプロテアーゼについて紹介してみたい。
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