BSE,残留農薬,偽装表示など,近年食品の品質問題や不祥事が相次いで起こっている中,消費者の食品に対する安全,おいしさ,機能性の追求はますます高まっている.その中でも「おいしさ」は,消費者の繰り返し購入を決定づける重要な要素の一つであり,また商品の再購入プロセスの確立が商品開発にかけた投資を利益に転換する企業戦略の一つであるとするならば,商品設計において消費者が受容するおいしさを満たすことは絶対条件となるわけである.しかし一方で,このおいしさを規定する要因は非常に複合的であり,また市場における競争の激化や技術開発の複雑化によって,これまでの少数の専門家や職人に頼った商品開発の意思決定が,多様化した消費者の知覚に必ずしも一致するものではなくなっている.そこで今日,消費者が感じるおいしさ,またはもう少し限定したところで商品のもつ官能特性について,よりシステマティックに,そして客観的な数量データとして測る手法が広く望まれている.
こうした背景において,Alpha M.O.S社 (Toulouse,France) は,1993年にセンサーアレイとパターン認識技術を利用した Electronic Nose(電子嗅覚システム),2000年に Electronic Tongue(電子味覚システム)の開発に成功するなど,感覚的な特性を数値化する技術の発展に取り組んできた.こうしたセンサーを含めた機器分析手法にかかる需要は年々増え続けており,風味に関する客観的かつ再現性あるデータが,繰り返し続けられる商品開発の方向性の選択,決定を支援している.しかし,人の感覚の使い方をあまりに軽視するなど,分析データの解釈を安易に得ることだけに頼りすぎることで,商品のもつ風味,あるいはおいしさの視覚的なコミュニケーションツールとしてデータを機能させる意図とは反対に,実際の消費者の感覚とはかけ離れた結論が先行し,商品開発の失敗に導くこともある.
本稿では,電子嗅覚システムの有する最新技術に加えて,おいしさに関連する官能分析を進める上で人の感覚との相互関係を見据えたその使い道を明らかにしたい.
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