ヒトをはじめとする多細胞生物では,体を構成する細胞(体細胞)はそれぞれの組織・器官に特異的な機能を分担している.体細胞は,体全体の統合性を乱さないように増殖し,その過程でやがて老化する有限寿命細胞である.卵子や精子のもととなる生殖細胞は例外で,無限増殖が可能な不死化細胞であり,子孫から子孫へと永遠の生命を継承する.がん細胞もまた例外である.がん細胞は元来有限寿命である体細胞に由来するが,不死化していて永遠に分裂を繰り返す能力を新たに獲得している.がん細胞は生体にとって何ら有益な機能を分担することなく,体全体の統制に従わず勝手に増殖し,最後は個体を死に追いやる.不死化以外にも,がん細胞は特有の性質をいろいろ有する.たとえば,病理学的に特徴的な形態,異常染色体,転移する能力,悪液質の分泌,特殊な腫瘍マーカーの発現などである.これらの中で,「不死化」は,がん細胞の最も本質的な特質である.
細胞老化と不死化は表裏の関係にあり,この両方の現象にテロメアおよびテロメレースが深く関わっている.細胞が老化して死ぬか,不死化してがん細胞になるか,その分岐点には,テロメア・クライシスという重要な現象がある.今回は,テロメア・クライシスに焦点をあてながら,テロメアおよびテロメレースと発がんの関係について紹介する.
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