一般人のもつ科学者のイメージは白衣を着て顕微鏡を覗いている姿ではないだろうか.白衣を着て様々な化学薬品を取り扱い,未だ見ぬ世界を求めて顕微鏡を覗く.科学研究に欠かせないものとして光学顕微鏡が多くの場面で活躍してきた所以であろう.
最近,その光学顕微鏡技術,特にバイオイメージングを目的とした顕微鏡技術に大きな進展が見られる.それも光学や物理学でなく,化学の手を借りて.その1つは超解像法と呼ばれる新しい手法である.光を使った顕微鏡は,光の波長より小さな物体の観察はできないとされてきた.しかし,近年,試料を染色する蛍光分子の特性をうまく利用し,この限界を超えることに成功した.また,もう1つ,試料を染色することなく観察できる手法の開発も進んでいる
(1~3).生体分子と光との相互作用は小さいため,細胞や生体組織を観察する際はあらかじめ試料を染色しておく必要があった.しかし,近年,分光学的手法を駆使し,試料中の分子振動を利用して,試料の顕微鏡像をつくりだすことが可能になった
(4).
上記の2つの新しい顕微鏡は,光と観察対象の物理化学的な相互作用を積極的に利用し,これまでの光学顕微鏡の限界を超えることに成功した.今回は,光学技術を駆使するだけでは超えられなかった壁をいかにして超えたか,その原理を概説する.
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