生体の膜が微小の粒子からできていることが広く認められるようになり,膜の微細構造に関する現在の考え方を再検討する必要が生じている.膜の生理作用,組成あるいは代謝に関する多くの研究の結果は,一般に生物の膜がリポ蛋白質のサブユニットから成り,これが膜状に集まってできたものであるという考えを支持するもので,こう考えることによって初めて生体膜の持つ生理活性,特異性および適応性をよく説明することができる.この「微粒子モデル」を支持すると考えられる根拠を示し,あわせてこれまでの「脂質2分子層モデル」の欠点を指摘した.
植物のクロロプラスト中に観察される層状構造(ラメラ)は,あきらかにサブユニット(コンタソームと名づけられている)から成る一種の膜であるが,このサブユニットは半分が界面活性作用を持つ複合脂質と色素類で占められているリポ蛋白質である.主な複合脂質は4種類で,そのおのおのが他と異なった特異的な脂酸組成を持っている.この事実は,サブユニットの中で脂酸の炭化水素鎖と蛋白の疎水性アミノ酸群が特異的に対応している可能性を暗示するものであり,蛋白質は最も強く脂質と結合する部位を自から規定することができると推理される.われわれは,膜サブユニットの蛋白質の内側で脂質の炭化水素鎖がそれに相補的な疎水性領域との「疎水性会合」により結合しているものと考える.これが凝集して生じる面状のリポ蛋白質は,表面にリン脂質の強い陰電荷を持っており,柔軟なリポ蛋白質のイオン交換膜を形成することとなる.このような立体構造が物質代謝によって変化すると考えると,生体膜の輸送現象をうまく説明することができる.
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