細菌のペプチドグリカンや真菌の β-1,3-グルカンのような細胞壁の必須成分は,私たち哺乳動物の細胞に存在しないため,病原菌に対して特異性が高い格好の標的であり,実際にβ-ラクタムのような優れた治療薬が使われてきた.抗菌剤開発という実用的見地を離れても,細菌・真菌や植物の細胞にとって必須な細胞壁が,細胞増殖と調和していかに形成されるかは,基礎生物学的に興味深い問題である.これまで多くの研究がなされ,これからは各素材の合成酵素が,細胞骨格や小胞輸送で適切な部位にいかに配置されて働くかが中心的問題であろうが,ここに合成酵素の本体もいまだよくわからない細胞壁成分がある.本稿では,この酵母の β-1,6-グルカンについて解説する.
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