食の偽装は世界的にも大きな問題である.産地偽装は今も昔も頻繁に起きており,輸入物を国産品と偽るなど,枚挙に暇がない.違う食材を用いる例も多い.エビの場合,ブラックタイガーを車エビ,バナメイエビを芝エビ,ロブスターを伊勢エビと偽って表示するなど,毎日のように新聞各紙に取り上げられていたことは記憶に新しい.食の偽装を防ぐために,さまざまな取り組みがなされているが,本稿では例として蜂蜜,なかでもマヌカ蜂蜜を主として取り上げ,偽装を防ぐための認証評価法について紹介する.マヌカ蜂蜜に限らず蜂蜜は,加糖(希釈)や加熱,産地のすり替えなど,以前より偽装が疑われる例の多い食材と言える.
胎児期の子宮内環境が生まれてきた子どもの将来の疾病に影響を及ぼすことがいくつかのコホート研究により明らかになりつつある.現在では妊娠期の低栄養環境が生活習慣病の発症に深く関与するというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)という概念が提唱されている.では,糖尿病の妊婦のように子宮内が高血糖という過栄養環境ではどのようなリスクがあるのだろうか? 本稿では妊婦の子宮内高血糖環境がもたらす子どもへのリスクとそれを改善するω-3系不飽和脂肪酸の役割について解説する.
2016年のノーベル医学生理学賞を受賞された大隅良典先生のオートファジーに関する研究は,酵母の突然変異株の取得と原因遺伝子の解析により大きく進展した.酵母は究極のモデル真核生物として,これまでも細胞周期やタンパク質輸送系など,さまざまな生命現象の解明に大きく貢献してきたが,今回の受賞は研究対象としての酵母の有用性を改めて示した.一方,生命科学の研究を効率的に進展させるためには,研究材料すなわちバイオリソースをいかに有効に活用するかが極めて重要である.ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は,世界最高水準のライフサイエンス基盤整備を進める目的で2002年度からスタートした国家プロジェクトである.NBRP酵母はプロジェクトスタート時から参画しており,これまで15年にわたる事業で,世界トップクラスの酵母リソース機関となった.本稿では,NBRP酵母事業の内容,重要性を紹介し,今後のあり方について考えてみたい.
植物は,動物のように餌を探しに出かけたり,より良い環境を求めて移動したりできない.そのため,細胞の形や機能を大胆に変えるしくみを備えることで,柔軟に環境に適応し,繁栄してきた.表皮細胞は,植物が外界に接する最前線であるため,環境に応じて特殊な器官を形成するような進化を遂げている.たとえば根毛は,根の表皮細胞の一部が外側に伸長して形成された器官であり,土中からの水分や養分の吸収に重要な役割を果たす.根毛形成を制御できれば,農業作物への波及効果も期待される.本稿では,表皮細胞分化にかかわる遺伝子CPCの機能を中心に,これまでに明らかにされてきた根毛・非根毛型を決めるしくみについて解説する.
金ナノ粒子は,大きなモル吸光係数をもつことに加えて粒子間距離に応じて吸収波長が変化するという特徴をもつことから,検査薬や指示薬などのセンサー物質として広く利用されてきた.しかしながら,これまで金表面への担持物質として糖やタンパク質,人工的にデザインされた有機化合物が利用された例は数多く報告されてきたが,二次代謝化合物(天然物)が利用された例はほとんど知られていない.本稿では,これまでに知られているナノ粒子を利用したセンサー物質開発研究について概説したのちに,筆者らが合成に成功した糖鎖に含まれるマンノース残基を特異的に認識する金ナノ粒子PRM-AuNPsについて紹介する.