小麦粉を白くしようと始まった小麦粉クロリネーションを調べるうちに,コロイド的観察から小麦デンプン粒の疎水化が見つかり,さらに小麦粉の乾熱処理(120°C,2時間),長時間の室温放置でも同じ疎水化が見つかった.これまで不明だったカステラの小麦粉エージングによる高品質化の原因が小麦デンプン粒の疎水化であろうと推察され,小麦デンプン粒表面のタンパク質の関与が大きいことがわかった.小麦粉を乾熱処理,あるいは長時間の室温放置で生じた疎水性により,ホットケーキ組織弾力性向上,高品質カステラの製造,米粉パンの場合にはその疎水性による小麦グルテニンSS結合の還元による米粉パンの製パン性低下などに影響していることがわかった.
化学療法のための生物活性化合物を効率的に得る試みは,天然物の全合成とともに発展してきた.最近の報告でも,これまで臨床に用いられてきた抗生物質のうち実に65%が天然物由来とのことである(1).しかし,ここ20年の間にその取り組み方法も多様性を帯びてきた.本稿では,歴史のページをめくりつつ,現在ホットと思われる取り組みを取り上げ,さらに個人的に興味をもっているハイブリッド戦略について紹介したい.
オーキシンは植物の形態形成や環境応答を制御する非常に重要な植物ホルモンである.近年,代表的なオーキシンであるインドール-3-酢酸の主要な生合成経路がシロイヌナズナにおいて解明され,さらに蘚苔類を含む広範な陸上植物にもこの経路が保存されていることが明らかになった.これまでオーキシンは茎頂周辺の若い組織で作られて葉や根に移動すると考えられてきたが,実際には葉や根などのさまざまな器官・組織でも合成されていることがわかってきた.本稿では,オーキシンの濃度調節機構に関する最近の研究動向について解説する.
生命活動を維持するための摂食行動は,視床下部による制御を受けることが知られている.しかしながら,美味の認知によりもたらされる情動的な摂食行動を引き起こす高次脳機能メカニズムは諸説あり,なかでも山本らによる報酬回路活性説が有力視されてきたが,いまだその全貌は確立されてはいない.本稿では,「甘味」や「うま味」といった味覚によりもたらされる情動的な摂食行動を引き起こす脳活動において,島皮質味覚野と胃腸自律領野神経細胞間で生じる神経ネットワーク活動が中心的役割を果たしている可能性を紹介する.
モノクローナル抗体は,ある特定の抗原決定基(エピトープ)を認識し結合する単一の抗体であり,その特性を活かし,診断や医薬用途で幅広く利用されている.近年,モノクローナル抗体の需要は増しており,さまざまな抗体取得技術が開発されてきている.本稿ではそれらの新技術を包括的に紹介するとともに,われわれのグループが開発した,モノクローナル抗体の迅速取得技術であるEcobody法を解説する.