酸化酵素とは酸素分子を電子受容体として基質の酸化反応を触媒する酵素である.酸化酵素を用いる近時の酵素センサーでは酸素の代わりにメディエーターとして人工電子受容体を用いた簡便な計測系が採用されている.しかし,酸素を優先的に電子受容体として用いる酸化酵素本来の性質から,試料中の溶存酸素と電子メディエーターとの間で電子授受が競合し,正確な測定ができない.そこで,酸化酵素を改良することで酸素との反応性を抑制した“脱水素酵素化”の実現が望まれている.本解説では,フラビンを補因子とする酸化酵素の脱水素酵素化に関する研究についてその分子デザインの取組みを紹介する.
精巣性ヒアルロニダーゼ(EC 3.2.1.35)は,ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸のβ1,4-N-アセチルヘキソサミニド結合に作用するエンド型のグリコシダーゼである.この酵素は,多くのグリコシダーゼと同様に加水分解反応による糖鎖の遊離とともに,糖転移反応による糖鎖の伸長も触媒する.この酵素の特徴は,二糖単位で糖鎖の遊離および伸長を行い,これらの連続した反応によって二糖の倍数のオリゴ糖単位で遊離または伸長させた糖鎖を得ることが可能であるという点である.本稿では,精巣性ヒアルロニダーゼを用いた糖鎖組み換えについて紹介する.
世界各地で発生する乾燥,高温,塩などの環境ストレスにより,農業被害は年々深刻化している.筆者らは,近年発展するエピジェネティック制御の理解は,しなやかな遺伝子発現制御を可能とし,これまでの手法とは異なる環境ストレス強化法の発見につながると考え,エピジェネティック制御のうち,ヒストンのアセチル化修飾に着目して研究を進めた.そして,ヒストン脱アセチル化酵素(Histone deacetylase; HDAC)の活性を遺伝学的・薬理学的に操作することで,植物の環境ストレス耐性を高めることに成功している.本稿では,植物の環境ストレス応答にかかわるHDACについて,シロイヌナズナで得られている知見を紹介する.
本研究は,日本農芸化学会2018年度大会(開催地:名城大学)での「ジュニア農芸化学会」において発表された.本研究では,次世代シーケンサーを使用して土壌の微生物叢解析を経時的に実施した結果が発表された.土壌微生物叢は調べた一定期間の間に大きくは変動しないこと,培養した乳酸菌や酢酸菌を土壌に投入しても定着せず,時間経過に伴って元の微生物叢構成へと回帰する様子が示された.これらは,近年ようやく知られるようになってきた,菌叢の安定性を示す好例の一つとして捉えることができ,ジュニア農芸化学会発表で高く評価された.