太陽の光を利用することで駆動する光合成の明反応は,暗反応における二酸化炭素固定反応に必要とされる化学エネルギーの生成に必要不可欠であるが,その一方で不可避的に酸化力の高い活性酸素種の生成を引き起こす危険な反応である.光合成の明反応において活性酸素種の生成は葉緑体内部の光合成器官に酸化的に傷害を与え,光合成能力の低下,延いては,植物の生育の低下まで引き起こしてしまう.しかしながら,光合成生物において深刻な被害を及ぼす活性酸素種が,どこで・どのように生成するかは明確な答えがなかった.本稿では,近年,三宅グループが明らかとした活性酸素種生成メカニズムと光合成生物に普遍的に確認される活性酸素種生成抑制機構である”P700酸化システム”について紹介する.
植物はさまざまな香り化合物を作り,環境中に放出する.個々の香り化合物にはそれぞれの役割があり,香り化合物放出は植物の生き残り戦略の一つである.これまでの研究で香り化合物を作る仕組みはかなり明らかになったが,作られた香り化合物がどのようにして植物組織から環境中に放出されるのかはまだよくわかっていない.一方,植物は香り化合物を取り込む.この場合も植物がどのように香り化合物を取り込むのか,その仕組みは明らかでなかった.最近になってようやく香り化合物の放出と吸収が精細な仕組みで制御されていることがわかってきた.本解説では香り化合物放出・吸収の仕組みに関する最新の知見を,筆者らの成果を交えて紹介する.
サイクリックGMP(guanosine 3′,5′-cyclic monophosphate; cGMP)はサイクリックAMP(cAMP)とともに動物細胞の二次メッセンジャーとしてよく知られている環状ヌクレオチド(cyclic nucleoside monophosphate; cNMP)であるが,植物でも形態形成,ホルモン作用,ストレス応答などを仲介するシグナル分子として機能している.動物では,cGMPの合成,代謝,作用機構などが解明され,一酸化窒素(NO)の二次メッセンジャーとしてのcGMPの働きもよく理解されているが植物では不明な点が多い.本稿では,動物と対比しながら植物におけるcGMPの働きを概説する.なお,植物におけるcAMPの機能についても多くの研究報告があるが,ここではcGMPを中心に述べる.
本研究は,日本農芸化学会2017年度大会(開催地:京都女子大)での「ジュニア農芸化学会」において発表され,銀賞を授与された.身近な食品成分でさまざまな種類がある糖について,クロマトグラフィーなどに頼らず簡便に識別するものである.すなわち,11種類の身近な糖を選び,水溶性・加熱時の変化・浸透圧・発酵の基質性の手段を用いて,これらの識別に成功した.大学や企業の研究現場では,高度に発達したクロマトグラフィーや分光分析の技術に頼りがちであるが,これは,身近な物質である糖を物性や反応性から識別するという,化学の本質に立ち返った素晴らしい方法として,学会から高く評価された.