化学と生物
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56 巻, 5 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
今日の話題
解説
  • 適応をゲノムから探る
    土松 隆志
    2018 年 56 巻 5 号 p. 317-323
    発行日: 2018/04/20
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    シークエンス技術の発展に伴って,ゲノムを網羅する多型データに基づいた進化研究が近年盛んである.特に,一つの種,もしくは近縁な複数の種について,多数のサンプルのゲノム配列に基づいた解析を行う「集団ゲノミクス」研究が進んでいる.集団ゲノムデータを解析することで,過去の個体数変動や集団の分化の過程,あるいは各遺伝子に働く自然選択圧を推定できるだけでなく,ゲノムワイド関連解析を用いて自然変異にかかわる遺伝子を同定することも可能である.このレビューでは,特に研究が進むシロイヌナズナとその近縁種の事例の紹介を中心に,集団ゲノミクスの概念や利用法を解説する.

  • 老化指標の探索
    石神 昭人
    2018 年 56 巻 5 号 p. 324-330
    発行日: 2018/04/20
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    2016年に報告された日本人の「平均寿命」は,女性87.14歳,男性80.98歳であり,女性はやがて90歳にまですぐに手が届きそうな勢いである.その一方で,自立した生活を送れる期間,すなわち「健康寿命」は,平均寿命より男性は約9年,女性は約12年も短いのが現状である.これは支援や介護を必要とする期間が,われわれの人生の最後に平均で9~12年もあるかもしれないことを示している.短いようで長い人生,いつまでも元気に過ごすためには,健康寿命をできるだけ平均寿命に近づける必要がある.本稿では,健康寿命を延ばすための最近の老化制御研究や老化指標の探索研究について,われわれの研究成果を交えながら解説する.

  • 創薬につなげる発見研究展開のヒント
    加藤 尚志
    2018 年 56 巻 5 号 p. 331-337
    発行日: 2018/04/20
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    ヒトの赤血球,各種の白血球,血小板はいずれも造血幹細胞から増殖・分化して派生する(図1A).これらの血球前駆細胞の増殖・分化・成熟は,造血因子(サイトカイン)や,造血組織環境の細胞相互作用(ニッチ)が細胞外要因として作用する.また細胞内ではシグナル伝達系や転写因子が血球細胞の増殖・分化を調節する.さらに細胞内外でマイクロRNAなどの非翻訳RNAが調節系に干渉する.造血因子では,赤血球産生に欠かせないエリスロポエチン(erythropoietin; EPO, 図2A),白血球の一種である好中球産生を起こす顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor; G-CSF)が発見され,遺伝子組換え製剤がヒト臨床で処方されている.わが国では各々1990年と1991年に承認され,貧血や好中球減少症の治療薬となった.EPOやG-CSFに続いて,血小板産生を担う造血因子トロンボポエチン(Thrombopoietin; TPO, 図2B)が発見され(コラム参照),創薬と臨床開発において数々の教訓を残した.

  • 油滴タンパク質TLDP1がn-3PUFAの高度蓄積を可能にする
    伊東 信, 渡辺 昂, 﨑山 亮, 飯見 勇哉, 関根 聡美, 安部 英理子
    2018 年 56 巻 5 号 p. 338-344
    発行日: 2018/04/20
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などのn-3高度不飽和脂肪酸(n-3PUFA)は,心血管疾患リスク低減,血中中性脂肪低下,関節リュウマチ症状の緩和等の機能性が認められ,医薬品やサプリメント原料として活用されている(1).これらのn-3PUFAは海産魚油から製造されているが,実際には海洋細菌,植物プランクトン,ラビリンチュラ類などの微生物が生合成し,食物連鎖によって海産魚類に蓄積されている(2).ラビリンチュラ類の脂質蓄積力は植物プランクトンや細菌を凌駕しており,工業的なn-3PUFA製造に適している(3).ラビリンチュラ類が多量のn-3PUFA含有脂質を細胞内に蓄積できる理由の一つは,高度な油滴(油球,Lipid droplet)形成・維持能力にある.本解説では,ラビリンチュラ類の新規油滴タンパク質TLDP1(4)という切り口からラビリンチュラ類の驚異的な脂質蓄積力の分子基盤に迫りたい.

  • 生体内のCa2+シグナルを見る
    安達 貴弘
    2018 年 56 巻 5 号 p. 345-352
    発行日: 2018/04/20
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    カルシウムバイオセンサーYC3.60を細胞系譜特異的に発現するマウスを作製し,生体内で細胞の動態のみならず,活性化まで可視化できる5D(x, y,z, 時間,Ca2+シグナル)生体イメージングを確立した.このシステムを利用し,病態発症前の微細な異常(超早期の未病)の検出系を構築した.さらに,プロバイオティクスや機能性食品の腸管でのシグナリングを可視化し,生体内での食シグナルの新しい評価系を確立した.さまざまな食品成分が腸管上皮にCa2+シグナルを惹起していることが明らかになった.これら技術を組合せ,長寿健康社会を実現するために,食による超早期未病の予防・治療方法(医食同源)の確立が期待される.

  • 道管要素と師部要素の分化を制御するマスター転写因子の研究から
    秋吉 信宏, 出村 拓, 大谷 美沙都
    2018 年 56 巻 5 号 p. 353-363
    発行日: 2018/04/20
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    現在陸上で見られる生存圏の確立と繁栄は,古生代中期にあたる4億8千万年前から3億6千万年前の間に起こった,初期の植物による陸上進出に端を発する.陸上化の直後に起こったと考えられる形態と細胞機能の多様化を経て,陸上植物は水や栄養を効率的に運び,全身へと送り届けるための長距離輸送システムとして通導組織を発達させた.一般的に,通導組織の構成要素は,土壌中の水や無機塩類を運ぶ水輸送細胞(water-conducting cell)と,植物自身が作り出した炭水化物やアミノ酸を輸送する栄養輸送細胞(food-conducting cell)である(1~4).水輸送細胞と栄養輸送細胞の輸送効率は,植物の生育や生産能力に直接的に影響を与える重要な要素であり,植物はその進化の過程でさまざまなタイプの通道細胞を作り出してきた.なかでも,最も成功した陸上植物の輸送システムが,現存する維管束植物がもつ,木部と師部から構成される維管束組織である.木部は管状要素,木部繊維,そして柔細胞を含む複合組織であり,水は管状要素が連なってできる仮道管あるいは道管によって輸送される(5~7).師部組織もまた,師部要素,伴細胞,師部繊維,および柔細胞からなる複合的な組織である.師部要素は連結して師管を形成し,有機栄養素の輸送を担っている(2, 4).近年のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を中心とした分子遺伝学的研究の進展によって,維管束幹細胞から管状要素と師部要素への分化を制御する転写ネットワークが明らかになりつつある(8~10).本稿では,管状要素と師部要素の分化制御機構について主に転写因子の視点から最新知見を概説し,植物の通道細胞の進化についてマスター制御転写因子を中心とした視点で論じたい.

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