細菌からヒトに至るまであらゆる生き物は集団として生活し,そのなかでは多かれ少なかれ社会性が生じている.こうした社会性の成立には集団内での多様性が必要であり,多様性獲得には遺伝的変異の積み重ねが重要である.しかし,遺伝情報の変更を伴わずとも生物個体間には不可避的にばらつきが生じ,そうしたばらつきを利用することで遺伝的に均一な集団内に協力関係が生み出されることがある.本稿では遺伝的変異を介さずに個体間の多様性を生み出す仕組みと,それがクローン集団中での協力行動を促進するメカニズムとして働くことをバクテリアの例を用いて解説したい.
免疫系は,病原体や毒素などの外来の異物などを排除する役割をもち,健康を維持する上で重要な生体調節機構の一つである.一方,ストレスや睡眠不足,食生活の乱れなどにより免疫機能が低下すると,がんやアレルギー,自己免疫疾患,感染症などの免疫関連疾患の発症につながることが示唆されている.免疫系を適切に維持するためには,免疫機能を調節する食材を毎日摂取することが簡便,かつ効果的であると考える.われわれは信州の伝統野菜の一つである「野沢菜」に免疫賦活効果があることを明らかにしたので,その研究成果を報告する.
リンゴは,抗酸化作用や抗がん作用,心筋梗塞を抑える効果などを通して国民の健康長寿への貢献が期待されており,見た目が斬新な赤果肉リンゴは果肉にアントシアニンをはじめとするさまざまな有用物質を集積している(1~4).リンゴ赤果皮にも有用物質が含まれているが(5),日本では果皮を剥いて食べることが多く果皮からの大量摂取は期待できない.本稿では,果肉が赤色を呈し,加工用のみならず生食用としても有望なII型赤果肉リンゴに焦点を当て,果肉着色原因遺伝子の構造・機能解析と着色メカニズムの一端,DNA情報を用いた効率的育種方法について解説する.生食用として有望な系統や品種登録された新品種の成分特性についても紹介する.
本稿では,何をどれだけ食べるか,すなわち栄養のバランスに留意しながら適切な栄養量を摂取する従来の食事療法に加え,さらに食事をどのように食べるのか,「食べる順番」の違いにより,食後血糖値やインスリンなどホルモンの分泌がどのように変化するかを概説する.次に,朝食の欠食や夜間の食事摂取は,体重増加につながることが知られているが,遅い時刻の夕食摂取と血糖値の関係についてはまだ明らかにされていない.食事をいつ食べるのか,食べる時間の違いが血糖値に与える影響について概説する.食後高血糖は,糖尿病患者だけでなく,軽症糖尿病や糖尿病予備軍の状態から動脈硬化を促進させる(1).高血糖は,血管内皮障害や炎症を引き起こし,動脈硬化を進展させ,脳梗塞,心筋梗塞のリスクを高める,一方,低血糖は心血管イベント,認知症を進めることが報告されている(2).さらに,血糖変動幅が大きいと動脈硬化を促進させ,がんや認知症を進めることが明らかとなってきた.したがって,心血管障害などをはじめとする合併症を抑制するためには,糖尿病患者だけでなく健常者にとっても,血糖変動を抑制する食べ方が重要になる.
チョコレートが日本で製造・販売されてから100年になる.日本菓子協会の統計によると,2014年チョコレートの売り上げは和生菓子を抜きトップになった.チョコレートは,それほどわれわれの身近な食品となってきた.このチョコレートの原料であるカカオ豆の学名はギリシャ語でTheobroma Cacaoといい,神々の食べ物と訳される.この名が表すように古くから滋養強壮の高い食べ物として知られており,われわれはカカオに含まれるポリフェノールに着目し20年ほど前から研究を続けてきた.今回はわれわれが行った研究を中心にカカオポリフェノールの機能性について報告させていただく.
長大な海岸線と広大な海域を有するわが国にとって,海洋バイオマスは国内自給が可能な再生可能資源である.筆者らは,微生物の力を借りることで(すなわち微生物発酵技術により),海藻由来の未利用糖質をバイオ燃料や化成品などに変換することにより有効利用したいと考えている.海藻糖質のなかでも褐藻由来糖質(アルギン酸とマンニトール)の利用に一貫して取り組んでおり,微生物としては,ここ最近は出芽酵母(パン酵母Saccharomyces cerevisiae)を対象としている.本稿では,アルギン酸とマンニトールの出芽酵母による有効利用へ向けた研究の最近の動向を,筆者らの最近の成果も交えつつ紹介したい.