生体分子間相互作用を検出するバイオセンシング技術は,食品,環境,医療,セキュリティーなどの応用分野のみならず,農芸化学をはじめとする生命科学などの基礎分野においても極めて重要な技術である.バイオセンシングの感度や特異性を向上させるためには,センシング分子(例,抗体,受容体,レクチン,酵素など)と標的物質(抗原,リガンド,糖鎖,基質など)が効率良く結合できるように,ナノ界面でセンシング分子をクラスター化し,その配向性を精密に制御して整列固定化できる足場分子が鍵となる.本稿では,筆者らが開発した「バイオナノカプセル足場分子」を用いたセンシング分子のクラスター化および精密整列固定化技術,および本技術を用いた各種バイオセンシングの高感度化について解説する.
微生物発酵生産技術開発の中で,セサミンが高度不飽和脂肪酸生合成系のジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸への変換を司るΔ5不飽和化酵素を特異的に阻害することを発見した.その後,ヒトへの機能として,セサミンが生体内抗酸化剤として働くことを明らかにした.セサミンは水酸基もっていないことから,食品の抗酸化剤としては使えない.著者らは,セサミンを摂取すると門脈を介して吸収されて肝臓に運ばれ,セサミンのメチレンジオシキフェニル基が開裂して2個の水酸基をもつカテコール体に変化され,生体内で抗酸化活性を示すことを明らかにした.
ビール酵母には,エールやヴァイツェンなどの製造に用いる上面発酵酵母とラガー製造に用いる下面発酵酵母の2種類が存在する.下面発酵酵母は,上面発酵酵母と比較して,低温での増殖・発酵性に優れ,高いエステル生成能,発酵終了後の凝集などの特性をもち, 2種類の酵母(Saccharomyces cerevisiaeとSaccharomyces eubayanus)に由来するサブゲノムをもつ異質倍数体,Saccharomyces pastorianusに属する.一つの細胞に2つのサブゲノムがどのように構成され,遺伝子発現を調節し,代謝物を制御して,表現型を現し,醸造特性を発揮しているか,下面発酵酵母の特性を把握するための解析技術を開発・活用しながら,その特性の理解を試みるとともに,得られた知見を解説する.
糖尿病,肥満,循環器疾患,精神発達障害など多因子疾患の発症を低減させることは,現代の重要な課題となっている.これらの疾患発症に出生前や幼少期の環境が影響することが多くの観察研究によって示された結果,Developmental Origin of Health and Disease(DOHaD)概念が生まれた.その概念に基づく疾患発症機序の解明に重要なヒントが,最新のゲノム疫学およびRNA研究の成果から得られる可能性がある.本稿では,最初にDOHaD概念のポイントを整理し,次に疾患発症機序を説明するための新しい枠組みである「多因子疾患の全遺伝子モデル」と「親の体細胞が獲得した環境情報の子どもへの伝達メカニズム」の発見について紹介し,DOHaD研究におけるそれらの重要性を解説する(図1).
酵素の基質特異性を変換するためには、変異導入による酵素自体の改変が一般的であるが、標的基質に形を似せた「擬似基質」(デコイ分子)を酵素に取り込ませると、標的基質とは構造が大きく異なる基質が野生型の酵素と反応するようになる。長鎖脂肪酸を水酸化するシトクロムP450BM3に、長鎖脂肪酸よりも分子の長さが短いカルボン酸をデコイ分子として取り込ませると、シトクロムP450BM3が標的基質を取り込んだと勘違いして誤作動を起こし、エタンやプロパンなどのガス状アルカンやベンゼンを水酸化できるようになる。
本研究は,日本農芸化学会2018年度大会(開催地:名城大学)の「ジュニア農芸化学会」で発表されたものである.発表者らは,高校にて採取した11種類のクモの巣の糸の構造を顕微鏡を用いて観察し,螺旋繊維が巻き付く縦糸と横糸の張力の強度を調べ,糸の構造と強度との関係を分析した.