食と健康志向の高まりにより,食品の機能性に関する研究が盛んに行われている.大豆は畑の肉と称されるとおり,タンパク質,ミネラル,ビタミンなどの栄養素が豊富であるとともに,ポリフェノールや食物繊維,オリゴ糖など多くの生体調節機能を発揮する成分も豊富であり,健康維持増進に重要な食材の一つに挙げられる.なかでも黒大豆は,種皮が呈する色素成分としてフラバン-3オール類やアントシアン類などのポリフェノールが多く含まれているのが特徴であり,私たちの研究室では,これらのポリフェノールに着目して研究を行ってきた.本稿では,黒大豆ポリフェノールの機能性について,これまでに明らかにされてきた知見の一部を紹介させていただく.
ゲノムですら全合成できつつある現在においては,タンパク質の特定のアミノ酸を変えることにより,新しい機能をもった分子を創出するというタンパク質工学の手法は,もはや誰でも使える技術である.しかし,この技術をいかに実際の産業に応用していくかには,さまざまな苦労が伴うものの,この技術を用いて開発され,実際に利用されている酵素は既にさまざまな分野で数多く存在する.本稿ではこれらの開発例を含め,タンパク質工学における手法,応用例を紹介し,今後の展望も併せて議論したい.
インスリンは,血糖値の上昇に応じて血中へと分泌され,糖の取り込みと糖代謝を促す重要なホルモンで膵臓ランゲルハンス島のβ細胞で合成される.インスリンの分泌や合成が低下すると,高血糖が持続する糖尿病を発症することが知られている.したがって,膵臓β細胞で,インスリン合成がどのように行われ,生理的にどのように正確に制御されているのかを理解することは,インスリン合成の観点からだけでなく,糖尿病の予防および治療の観点からも非常に重要である.インスリン前駆体のプロインスリンは,小胞体と呼ばれる細胞小器官で合成され,3つのジスルフィド結合形成を介して酸化的に正しく折り畳まれる.これまで,プロインスリンの折り畳み酵素やそれらの酵素群の発現制御の機構は未解明のままであった.今回,私たちは遺伝子改変マウスと膵臓由来β培養細胞の解析により,小胞体ストレスセンサーIRE1αが膵臓β細胞で5つの酵素遺伝子を転写誘導することで,プロインスリンの折り畳みを促進していることを見いだした(1).
太陽光エネルギーが利用可能な地球表層では,光合成一次生産を基軸とする豊かな生命圏が維持されている.海洋表層で生産された有機物に加え,陸域有機物の一部も海洋沿岸や河川を通じて海域に流入して混ざり合う.海域表層の有機物の大部分は,浅海でさまざまな生物代謝を受けながら短いターンオーバーでリサイクルされ,その一部が残渣として海底に堆積する(1).海底の残渣に依存した従属栄養型の微生物の中には多くの生物では処理しきれない難分解性有機物を何らかの形で利用する機能をもつことが期待される.そこで,われわれは深海を含むさまざまな海域から難分解性有機物を分解する細菌や酵素を探索し,その利用法の提案を行ってきた(2,3).