リグナン類は,ベンゼン環とそれに結合する3つの炭素鎖,すなわちフェニルプロパノイドであるC6–C3単位が2または3単位結合した天然物有機化合物群である.多くの結合様式,酸化される位置が観察され(1~3),炭素数が少ないノルリグナンも報告されていて,さまざまな生物活性が知られている.Scopusで検索すると2018年だけでも合成研究,新構造の単離同定,生物活性研究を含めて約600件ヒットする.しかし,リグナン類の基本構造,さらに立体構造と生物活性との関係については不明なことが多い.また,食品性植物(4)にも立体異性体混合物として含まれることから,リグナン類の立体異性体の合成を行い生物活性について調べてきた.現在健康食ブームであるが,当たり前のように摂取している化合物の知られざる一面を発見する可能性を秘めており,身近な植物のほかの生物との化合物を通した関係も見えてくる研究でもある.
本稿では,発光生物の科学における最近の大きな進展について,2つのトピックスを紹介する.一つ目は,「発光キノコの発光メカニズムの完全解明」.もう一つは,「ホタルの全ゲノム解読」である.どちらも大掛かりな国際共同研究により達成されたが,筆者を含む日本チームがその両方に関与できたことは幸いであった.
抗菌薬は病原菌による感染症の治療になくてはならない薬剤であるが,各抗菌薬に対する多剤耐性細菌の出現に加え,近年,腸内細菌叢(マイクロビオーム)に及ぼす2次的な健康被害(免疫疾患など)が報告されている.これらの欠点を克服した次世代型抗菌薬の一つとして,病原菌の情報伝達(two-component signal transduction: TCS)を標的にしたヒスチジンキナーゼ阻害剤の開発が期待されている.本稿では,ヒスチジンキナーゼ阻害剤の開発の現状と重要性を解説する.
植物由来アロマ成分(香り・匂い)は,植物の生存戦略において重要な役割を担う.われわれのよく知る花の香り以外にも,害虫に食べられることでも植物の匂いは放出される.これらの匂いは,害虫の天敵をひきつけ,周囲の植物にも「危険」を知らせる警報としての役割を担う.このように,動けない植物は匂いを駆使することで周囲の生物とコミュニケーションを図る(1).植物アロマ成分であるテルペン類は,抗虫性,抗炎症,抗がん,およびリラクゼーション(抗ストレス)などの多岐にわたる薬理効果が備わることから,世界中の研究者や医療関係者から注目されている.本稿では,植物が作り出す揮発性テルペンなどの生態系における機能,当該成分を利用した有機農法の開発,新たな医薬品(漢方)および機能性食品成分としての可能性について紹介する.
細胞内の温度計測が,最近の化学・生物系論文の“Hot topics”として扱われることが増えてきた.細胞内というミクロで複雑な環境の温度を測定することは難しいが,10年ほど前に温度応答性のアクリルアミド系高分子と環境応答性蛍光色素を組み合わせた蛍光高分子温度計による細胞内の温度計測例が報告されて,そこから急速に技術が発展してきた感がある.筆者は,従来から高い感度が特徴であったこの蛍光高分子温度計に,カチオン性基を付与し,細胞への導入法を簡便化し,実用的にすることに取り組んできた.本稿では筆者が開発に携わった3つのカチオン性蛍光高分子温度計の開発経緯を紹介し,今後の展望についてもご紹介したい.