植物ポリフェノールは,ヒトの生活に関係の深い身近な化合物群である.比較的単純な構造を持つものから,かなり入り組んだ複雑な高次構造を持つものまでの多種多様な構造を持つものが知られ,生理活性も多様である.古くから有機合成化学者は,これらのポリフェノール類の構造や特異な反応性と面白い生理活性に惹かれ,合成研究を展開してきた.21世紀入ると,目を見張るような進展があった.21世紀以前と対比させながら,鍵反応と合成戦略の進歩を解説したい.本解説では,特にフラボンとフラボノール,カテキン,プロアントシアニジン,エラジタンニン,フラバグリンの有機合成化学に焦点をあてた.
近年の研究により,腸内細菌叢はわれわれヒトの健康と密接なかかわりをもつことが明らかとなり,腸内細菌叢を介した健康維持に注目が集まっており,さらには腸内細菌を含めた腸と脳の双方向的な機能連関を意味する“脳腸相関”が注目されている.プロバイオティクスやプレバイオティクスを利用して腸内環境を整えることにより,精神的ストレスやそれに起因する精神疾患,さらには認知症の発症リスクを軽減する戦略が模索されている.本稿では,脳腸相関に着目して認知症と腸内細菌叢との関連を概説するとともに,プロバイオティクスの代表格であるビフィズス菌によるアルツハイマー病の改善作用に関する研究を紹介したい.
ミトコンドリアと葉緑体は,細胞内共生による進化の痕跡として,バクテリア由来の一部のゲノムDNAをもつが,残りの大多数の遺伝子を宿主である核のゲノムに転移させた.オルガネラに残ったDNAは真核生物の生育に不可欠だが,たとえば葉緑体では必要以上に大量のDNAを保持しており,一見,余分に見えるDNAの生理的な意義付けは長らく疑問であった.なぜ,オルガネラに一部のDNAを残して,しかも大量にもっている必要があるのだろうか.筆者らは最近,種子植物が,葉が老化して養分を転流させたり,リン欠乏による飢餓条件にさらされると,葉緑体DNAを積極的に分解し,リン養分として生育に再利用することを明らかにした.本稿では,このDNA分解システムについて解説する.
サソリは大きなハサミと尻尾の毒針を使って獲物を捕らえる.このような独特の形態とダイナミックな行動によって古くから人々の興味を引いてきた.しかし研究者にとってのサソリの魅力は「毒」自体にある.生存競争に負けないために,一部の生物は武器となる毒を作り出した.長い進化の過程で磨き上げられた生物毒は鋭い切れ味をもち,一瞬にして獲物の動きを止めることができる.サソリもこのような毒を多くもつが,これらは役割に応じた生理活性を示すことができるよう巧妙に設計されている.本解説においては,サソリ毒に含まれる多様な生理活性ペプチドについて,主にその構造に焦点を当てて紹介する.
本研究は,日本農芸化学会2019年度大会(開催地:東京農業大学)の「ジュニア農芸化学会」で発表されたものである.発表者らは,遺伝子の変異が原因となる遺伝疾患は,遺伝子の変異→アミノ酸の変異→生体内を構成するタンパク質の異常につながることから,タンパク質のアミノ酸変異と疾患の関係を事例数として算出し,タンパク質の構造における変異アミノ酸の位置と種類についてもその関連を考察した.