植物はさまざまな外敵やストレスから自分自身の身を守るためポリフェノールをその体内に合成する能力を有している.サントリーではこれらの植物を原料とする酒類や飲料の開発を手掛けており,ポリフェノールに関する研究を商品の品質保持に応用してきた.その後,食品の三次機能(健康の維持や向上に関与する生体調節機能)が注目されるようになったことも相まって,われわれは,古くから健康に良いとされる食品に含まれる機能性成分に着目し,その効能とメカニズムに関する研究を長年にわたり続け,特に植物に含まれるポリフェノールの生理機能について精力的に研究を進めてきた.ポリフェノールは反応性の高い水酸基をもち,ベーシックな機能として抗酸化作用を有する点は共通しているが,化合物によって,吸収・分布・代謝・排泄(ADME)などが異なり,それぞれに固有の特性を有している.ADMEを理解したうえで効能特性を捉えることで,より効果的に健康維持に役立つ商品を開発することができた.筆者らが行ってきたポリフェノール(図1)に関する研究開発をいくつか紹介する.
糸状菌(いわゆるカビ)は生育環境中に存在するさまざまな多糖を分解してエネルギー源として利用する.近年,それぞれの多糖の分解酵素遺伝子に特異的な転写活性化因子が次々と同定され,その転写誘導メカニズムの全容も明らかになりつつある.一方でグルコースのような資化しやすい糖存在下で起こるカタボライト抑制では従来の転写抑制因子がかかわる経路とは別の新奇経路が見いだされ,この経路の関与の程度が多糖分解酵素の種類によって異なることが判明した.本稿ではこれらの転写制御機構を介して糸状菌がどのように利用する糖質の優先順位を決定づけているのかについて考察する.
ヒトの腸内細菌を説明する際に悪玉菌,善玉菌という言葉が使われる.植物関連微生物の場合,善玉菌の一つに植物保護細菌と呼ばれる細菌がある.植物保護細菌は言葉のとおり,病原微生物や害虫から植物を守る能力を有している細菌で,一部菌株は微生物農薬の有効成分として利用されている.そのメカニズムは抗菌性二次代謝産物による抗生作用や植物の免疫力増強など,多彩な能力の複合的作用による.近年,ゲノム解読をはじめとする新しいアプローチにより植物保護細菌のさらなる能力と不思議な生態現象が次々と見いだされている.本稿では植物保護能力を有する蛍光性Pseudomonasについて紹介する.