1-デオキシノジリマイシン(DNJ)は糖の分解を阻害することで,糖の吸収・血糖値の上昇を抑制する.食後などの血糖値の急激な上昇は糖尿病の発症や進行にかかわることから,DNJのような食後高血糖を抑制できる成分は,糖尿病の予防や治療に有効であると期待されている.天然でDNJは桑葉に特徴的に含まれ,その機能性研究が広く行われている.しかし,桑葉のDNJ含量は限られるなど,その利用には課題もある.他方,新たなDNJの供給源として,食用微生物の利用が注目されている.本稿では桑葉および食用微生物に含まれるDNJについて概説し,その機能性や安全性について紹介する.
近年,国内では全国規模での豚コレラの感染拡大やマダニ感染症による死亡例が大きなニュースとなり,国外でのエボラ出血熱やジカ熱などの蔓延が東京オリンピックを控えた我が国の大きな問題となっている.また,ゲノム解読技術の進展から新たなウイルスの存在が多数報告されている.このようなウイルスによる新興や再興感染症および環境ウイルスが注目を浴びている一方,これらのウイルスの分類について顧みられることは少ない.本稿では,ウイルス分類学の定義に基づいて,話題のウイルス,分類の改訂されたウイルス,さらに新たに発見されたウイルスについて紹介する.なお,本編には,興味のあるウイルスを手軽に検索できる索引リストを併記した.
乳酸菌が生産する抗菌ペプチド,ナイシンAは産業界に多大な被害を及ぼす種々の有害微生物に有効であることから,天然の安全な抗菌剤として注目されている.しかし,既存の市販ナイシンAは生産に塩析法を用いるため,純度が2.5%と低く,応用範囲が限られている.このような背景のなか,我々はナイシンAの医療分野への応用を目指し,①ナイシンA高生産乳酸菌の迅速スクリーニング法,②ナイシンAの大量生産法および高度精製技術,③ナイシンAを利用した天然抗菌剤および製剤化応用技術の3つの技術開発を行った.その結果,誤って飲み込んでも人体への悪影響の少ない,安全な天然抗菌剤やそれを利用した安全な口腔ケア剤を開発することができた.
本研究は,日本農芸化学会2019年度大会(開催地:東京農業大学)での「ジュニア農芸化学会」において発表されたものである.「アリと蚊を共存させると蚊が死ぬ」ことを発表者が偶然見つけたことから本研究は始まった.長期にわたる観察,分析実験を繰り返し,ヒトスジシマカに致死的な影響を与えるクロクサアリの分泌ガスの成分を明らかにした.クロクサアリの放つ強力なガスの詳細解析は防蚊剤の開発につながる可能性が期待できる.