疫病菌とは植物に感染するPhytophthora属の病原微生物である.重要農作物に時に多大な損害を及ぼすが,1840年代にアイルランドで起きたジャガイモ飢饉は有名な歴史的事件である.疫病菌を如何に防除するかは重要な課題であるが,一方,この微生物の有性生殖に学術的興味が注がれてきた.疫病菌が有性生殖する際には相手の性(交配型と呼ぶ)を必要とし,そこには交配ホルモン(α1, α2)が介在する.疫病菌とはどのような微生物なのか,交配ホルモンの正体は如何に解明されたのか,有性生殖システムの全容解明に向けて今後,何が必要かを解説する.
エピロドデンドリンは,メグスリノキに含まれるフェニルブタノイド配糖体である.化学合成により,その構造を少しだけ変えた誘導体をつくり,生理活性評価を行うことで,新しいチロシナーゼ阻害剤を開発した.チロシナーゼが触媒する酸化反応は,自然界における着色現象およびポリマー化現象の初期段階の一つである.したがって,その阻害剤は,機能性化粧品,抗菌剤や褐変防止剤などに利用することができる.開発したチロシナーゼ阻害剤は,エピマー間で活性差を有し,かつジグリコシド化しても活性が低下しない特徴をもつ.このような,メグスリノキ成分から立体認識型のチロシナーゼ阻害剤の開発に至った経緯について,簡単に解説する.
生物圏での元素の循環には多様な微生物の活動が大きく関与する.これらの微生物の生態や機能の解明は生物地球化学の分野で重要な課題であるが,近年では,自然プロセスを模倣した低環境負荷の生物利用技術を創出する応用研究の重要性も増している.遷移金属元素マンガンの溶存態であるMn2+は,好気的な環境では微生物の触媒作用によって酸化物を形成して析出する(=バイオミネラリゼーション).マンガン酸化物は環境中で金属イオンの吸着剤として,また無機・有機化合物の酸化剤として機能する.近年,マンガン酸化物の形成過程やその金属イオンとの相互作用など基礎的な研究が進展するとともに,金属含有廃水の処理など環境技術分野への展開も活発に行われている.本稿では,はじめに環境中でのマンガン酸化物の形成と微生物の関与,元素循環における役割について概説した後,マンガン酸化菌研究の現状と課題について,4つの観点から述べてみたい.
本校では,エメンタールタイプチーズの製造においてチーズアイの形成不良が生じている.本実験では牧草粉末の添加量が,チーズアイ形成,微細構造,プロピオン酸菌量,ならびに有機酸量に及ぼす影響を,各熟成期間の形態を走査型電子顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡による観察,および有機酸とプロピオン酸菌量はHPLCと定量的PCRにて測定した.結果,牧草粉末の添加はプロピオン酸菌の増殖にはあまり影響しないが,チーズアイの形成を促進することが明らかとなった.また,チーズアイの個数とサイズをコントロールできる可能性が示唆された.