N-アシルエタノールアミンは長鎖脂肪酸がエタノールアミンに結合した一群の脂質分子で,動植物組織で生理活性物質として機能する(1)(図1).結合している脂肪酸種の種類によって異なる受容体に作用し,抗炎症・食欲抑制・神経保護等の幅広い生物活性を発揮する.N-アシルエタノールアミンは必要に応じて局所的に合成され,生理機能を示した後は速やかに分解される.このように,N-アシルエタノールアミンは生理機能を保有するのに加えて,その生体内含量がダイナミックに増減することから,生合成や分解にかかわる酵素が注目されている(2).本稿では,全貌が明らかになりつつあるN-アシルエタノールアミンの生合成機構,特にN-アシル転移酵素に焦点を当て,われわれの知見を中心に概説したい.
19世紀半ばに顕微鏡により発見された細胞小器官である核や染色体は,19世紀終わりのメンデルの法則の再発見により,遺伝学と結びつき細胞遺伝学が生まれた.その後,細胞遺伝学は,分子生物学や顕微鏡技術の発展とともに,より高い感度および解像度を得て,より広い観察空間,時間軸に沿った解析が可能となってきた.近年では,次世代シーケンサー(NGS)の発展により,DNAの核内配置やエピジェネティック情報などの時空的な変化をNGSベースの手法により解析可能となってきたが,細胞遺伝学的手法は,今なお色褪せることなく,これらの現象を視覚的に捉えるための重要な技術となっている.本稿では最新の細胞遺伝学技術と,その利用法として,動原体改変による半数体作製技術を紹介する.
ヒトの消化管には膨大な数の腸内細菌が棲息している.腸内で細菌が単独で棲息していることは少なく,多くは宿主の上皮細胞や粘液に接着したり,細菌同士で凝集塊を形成し共生している.これらの相互作用には,菌体表層のさまざまなタンパク質が接着因子としてかかわる.さらに最近の研究により,粘液と腸上皮の僅か数ミリメートルの空間のなかで,細菌は自らの接着因子の発現を制御し,能動的に定着していることや,腸内細菌が作り出す代謝産物が,ほかの細菌の刺激因子となり接着因子の分泌に影響を及ぼすことが明らかになってきた.これらは細菌がもつ腸内環境への適応機構であり,生体内での細菌の様子を知るうえで非常に重要である.本稿では,Bacteroides属やBifidobacterium属の大腸における接着機構を中心に,最新の知見を紹介したい.
ヤマトシジミは幼虫時期に単食性であるにもかかわらず,外来種のオッタチカタバミに産卵していることに気づいた.そこでカタバミ,アカカタバミ,オッタチカタバミ,ムラサキカタバミの4種を材料として,ヤマトシジミの産卵数や成長量,食草の色調や成分について調査をした.その結果,ヤマトシジミはムラサキカタバミ以外の3種で成育した.さらに,ムラサキカタバミをシュウ酸量以外の要因で区別している可能性が示された.