抗体に代表されるバイオ医薬品は,その標的特異性と薬効の高さから市場規模を急速に拡大している.一方,バイオ医薬品をはじめとする難吸収性薬剤は生体に対する透過吸収性が低いため,その投与には注射・点滴といった肉体的苦痛を伴う侵襲的投与法に頼らざるを得ず,さらに通院にかかる時間や経済的負担も相まって患者のQOL(生活の質)低下を招いている.この問題を解決するために,皮膚や粘膜などの上皮で細胞同士を強く接着し,体外からの異物に対するバリアとして機能するタイトジャンクション(TJ)を標的とした薬剤の開発が行われている.TJを一時的に開けることで,経皮・経肺・経粘膜など侵襲性が低く,かつ汎用性の高い投与が可能となると期待されている.
現在スーパーマーケットでは,1種類の食品だけでもさまざまな品種やメーカーブランドのものがバラエティ豊かに並んでいる.また,インターネット販売の拡大によって簡単に“お取り寄せ”ができ,われわれ消費者は自分たちで「好み」の食品を選択できるようになった.では,その「好み」を決定づけるのは何か? それはそれぞれの食品の本来もつ性質に対し,色や風味,機能性など,+α(アルファ)として強調されるものであり,多くの場合,その食品に含まれる成分組成の違いに基づく.本稿では,食品の成分組成にかかわる因子は何か? さらに食品の成分組成プロファイルに基づく評価から何が分かるのか? についてフードミクスを活用したわれわれのこれまでの研究を中心に紹介する.
抗生物質の登場は,不治の病と呼ばれた病気の数を減らし,人類の平均寿命を飛躍的に延ばしてきた.最近では,さまざまな疾病に有効な薬剤や,健康維持のための多様な薬剤も望まれている.しかしながら,これまでに微生物から発見された生理活性物質は数万種類に及ぶにもかかわらず,それらのなかで実際に医薬品や農薬として実利用に至っているものはほんの僅かであり,それ以外の多くは,有用な生理活性をもっていながら,さまざまな理由から未利用なままになっている.そのような未利用資源を現在の科学技術で有用な資源へと導くことができれば,創薬スピードを加速させることが可能であると考え,未利用資源の一つである抗生物質streptothricin(ST)とその類縁化合物(図1)をモデル化合物として,その実用化を目標とした研究を行ってきた.
タンパク質は自身が働く場に適切に輸送されて初めてその機能が発揮できる.多くのタンパク質は合成の場である細胞質以外に輸送される.タンパク質の生体膜への組み込み反応や,生体膜を超える透過反応は,タンパク質性の輸送装置により進行すると考えられてきた.しかし,近年,大腸菌において,これらの反応が進行するためには既知のタンパク質性の因子のみでは不十分であることが判明し,MPIase(Membrane Protein Integrase)と名付けた糖脂質が積極的に関与していることが明らかになった.本稿では,MPIaseの構造と機能を概説し,その発現制御機構に関する最近の知見を紹介する.
キノコとは,分類学的には担子菌や子嚢菌の子実体(fruiting body)の総称であり,ほかの生物種にはないユニークな化合物を数多く産生している.薬理効果を示すキノコも多くあり,霊芝(マンネンタケ),冬虫夏草(子囊菌類が昆虫類に寄生し,最終的に宿主から発生したキノコの総称)などは古くから貴重な薬として用いられている.キノコからは抗腫瘍,抗菌作用のほかさまざまな生理作用を示す化合物が単離されており医薬品の分野での応用をはじめ,日常的に摂取することで疾病の治療や予防が期待されている.キノコは地球上に14万種以上存在するという説があるが,現在まで1万種ほどしか命名されておらず,さらにその命名されたキノコのうちの10%程度しか2次代謝産物に関する研究が行われていない.キノコはいわば「未開拓の化合物の宝庫」なのである(1).
微生物のもつ多彩な機能を利用して,多くの有用物質生産に微生物による発酵法が用いられている.そのなかでもグルタミン酸発酵を発端としてわが国が主動的な役割を果たしたアミノ酸発酵技術の発展により,ほとんどのアミノ酸の微生物による生産法が確立されている.発酵生産技術の開発過程で,さまざまなアミノ酸の生合成経路やその代謝制御機構の存在が明らかとなり,代謝制御発酵が進んだ一方で,生合成機構や調節機構の詳細はあまり明らかにされてこなかった.筆者らはこれまで構造生物学的手法などを用いて,リジン生合成の鍵酵素の活性調節機構を明らかにしてきた.本稿ではリジンをはじめとするアミノ酸の生合成機構やその進化,生合成酵素の調節機構について,筆者らが行った研究を中心に紹介する.