ある種の酢酸菌は,グルコースなどの糖を基質としてセルロースを合成する.セルロースは,ターミナルコンプレックス(TC)と呼ばれる細胞膜に局在する酵素複合体によって合成される.酢酸菌によって合成されるセルロースは,太さが50~100 nmであり,TCはナノファイバーを紡ぎ出す超精密なナノマシンであるといえる.酢酸菌のTCには少なくとも4つのサブユニット(CeSABCD)が含まれており,糖転移反応による重合,排出,繊維化,結晶化という非常に複雑な過程を司っている.本解説では,これら4つのサブユニットの構造・機能について,他のセルロース合成菌における最近の知見を含めて紹介する.
マメ科植物と土壌細菌の一種である根粒菌は,双方が保有する因子を介した分子間相互作用により,宿主植物に根粒を形成することで,互いが有益となる相利共生を成立させる.この共生相互作用は,宿主範囲が限定された宿主特異性が存在し,特定の共生相手との間のみで行われる.この宿主特異性は狭小であり,双方間の“好み”を決定するメカニズムは多岐にわたっている.そこで本稿では,この根粒共生相互作用における共生因子を紹介するとともに,宿主特異性の分子機構の一端を具体的な例を挙げながら植物側と根粒菌側の双方から解説する.
キノリン酸は,必須アミノ酸であるトリプトファンの中間代謝産物であり神経毒である.キノリン酸の脳内蓄積が,ハンチントン舞踏病などの神経変性疾患と関連するという「キノリン酸仮説」が提唱されてから40年が経つ.筆者らは,キノリン酸を体内に蓄積できる遺伝子改変マウスを用いた解析で,このマウスが腎線維化と腎性貧血様の症状を呈することを見いだした.これは,キノリン酸と慢性腎臓病とが関連するという第2の「キノリン酸仮説」といえる.本稿では,キノリン酸と慢性腎臓病とのかかわりについて解説するとともに,これらを踏まえて「腎」を守る機能性食品の創出が可能かどうかについて考えてみたい